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SDM Voice|当麻 哲哉教授(SDM教員)

2018年度に創立10年を迎えるSDMを「バイキングレストラン」に例える当麻哲哉教授。SDMの中でもコアとなるべきプロジェクトマネジメントに注力する当麻先生が、今、何を思い、何を目指しているのか、話をうかがいました。

Profile

当麻 哲哉(とうま てつや)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授

元・米国3M社Advanced Product Development Specialist。専門分野:コミュニティ(とくに医療・教育・地域)のための コミュニケーションデザインと、プログラム&プロジェクトマネジメント。グローバル企業開発技術者として海外で豊富なプロジェクトマネジメント経験。製品の市場導入、売り上げ貢献で受賞多数。

光通信と掛け合わせ、医療、教育、地域の分野を切り拓く

私の研究室では、大きく分けて3つの分野で研究を進めています。一つ目は「医療・ウェルネス」、二つ目が「教育」、そして三つ目が「地域」です。私自身はもともと光ファイバや液晶ディスプレイのような光学材料の研究が専門で、それを遠隔通信、とくに「医療」や「教育」のテーマと掛け合わせて、高精細映像をいかにリアルタイムで届けるか、という実社会への応用を試みてきました。離れた場所にいる人同士が対面で話しているかのように会話し、お互いに意思疎通できること、あるいは見せたいモノを目の前にあるかのようにリアルに見せることを目指しています。

光通信×医療では、たとえば遠隔医療として皮膚科の診療をテーマに、皮膚科医の先生がたと一緒に研究に取り組んでいます。皮膚の状態を遠隔地に伝えるには、高精細な映像が必要です。肉眼でないと難しいといわれる皮膚科の分野において、8~9割の皮膚疾患は遠隔で診断できると医師に言ってもらえるまでのレベルになりました。最後の1~2割は検体を取って顕微鏡で診る必要があるケースなので、遠隔では如何ともしがたいのですけれども。

最近取り組んでいるテーマは、映像をデータ転送する際に発生する遅延にいかに対応するか、という研究で、特任助教の米田巖根先生と一緒に行っています。映像は膨大なデータ量なので、送ろうとするとどうしても遅延が発生します。「医療」の分野で言うと、いずれは遠隔手術などに使いたいと考えているので、この遅れにどう対応するかというのは大きな課題です。今のところは、本質的に遅延の発生をゼロにすることはできないので、人間としてその遅延をどう捉えるのか、という研究に取りかかっています。遅れに対して人間の知覚的な反応がどのように生じ、どういったストレスが発生するのか、という認知科学の分野からアプローチしています。遅延を前提として遠隔操作のリスクとプロセスを考える、という点にシステムデザイン的な工夫が必要となります。

こうした活動から、映像の遠隔伝送に限らず、コミュニケーション全般を研究対象にするようになりました。人と人の対話や場づくりの研究も徐々に始めています。教育分野についても、初めは遠隔教育を考えていましたが、現在では教育そのもの、とくにアクティブラーニングや新規事業創出のための人材育成なども研究対象としています。

今後、さらに深めていきたい分野としては、「地域」です。最近、学びたいという学生も増えてきており、ニーズを感じています。「地域」の分野では、ケーススタディは山ほどあるのですが、どれも地域のリーダーのような方が属人的な経験と勘で進めていて、理論的なプロセスが確立されていません。そのため、いい成果が出ているところを真似しても、なかなか同じようにはいかないのが現実です。これをシステムデザイン的に体系化できたらと思っています。国内外問わず、積極的に事例を調べて、日本流のものをつくりあげていきたいですね。

講義では、主にプロジェクトマネジメントを担当しています。システム思考やデザイン思考で何かいい提案をつくっても、スケジュールや予算などを成り行き任せにしていたら、実現できなくなってしまいます。いかに計画を立てて実行するか、それが計画通りにいかなかった場合にどうフィードバックして計画を立て直すか。それを繰り返しながら目標を目指すという取り組みがプロジェクトマネジメントです。国際的に標準とされているプロジェクトマネジメント知識体系、PMBOK(Project Management Body of Knowledgeの略、「ピンボック」と読む)をビデオや事前学習などで効率的に学んでいただきつつ、授業では演習などを取り入れて、実践的な学習を目指しています。

真のグローバル化に向けて

常々、SDMは「バイキングレストラン」のようだと思っています。普通のレストランのように座ればメニューが出てくるというわけではないのがその理由です。ここでは多様な専門性がビュッフェスタイルで並んでいるので、どんなものが置いてあるか自分で立ち上がって見に行って、どれが自分にとって必要なのかを判断するために、好き嫌いを言わずにいろいろ試してみることが必要です。せっかくいろいろなものが並んでいるのに「私はイタリアンしか食べない」「和食しか食べない」というのではもったいないですよね。ひとつの研究室に納まっているのではなく、立ち上がって積極的に様々なことを学びに行く姿勢が大切です。

2018年度SDMが創立10年を迎えます。SDMは「バイキングレストラン」のようだと表現したように、ひとつの分野に限定せずに、多様な価値観が存在する社会そのものなんですね。様々なものが集まって組み合わさっている複雑な集合体、まさに「システム」になっています。それだけに何をしている大学院なのか、うまく説明ができていなかったかもしれません。これからの10年をどう取り組んでいくかが課題でもあり、楽しみでもあります。

そのためにも、これからのSDMを支えてくれる人材に成長できる学生の入学に期待をしています。SDMでは、一方的に学ぶだけではなく、「半学半教」の精神で、自分が持ち込んだ専門性をうまく周りの人に伝えて、影響を及ぼし合うような人材を求めています。演習やグループワークも多いので、ムード作りに長けている人や、コミュニケーション能力の高い人、そして自分の専門分野においてリーダーシップを発揮できる人にぜひ来ていただきたいです。留学生もいるので、英語力も大切な要素です。言葉の壁をうまく乗り越えて、さらにグローバル化を進めたいですね。

とくに私が担当しているプロジェクトマネジメントの分野では、グローバル化は急務です。世界では日本のプロジェクトマネジメント技術は非常に優れていると言われていて、世界中から「日本で学びたい」という問い合わせがあります。しかしながら、そういった世界からの要望に対して、このSDMが、グローバルレベルでのプロジェクトマネジメントを学べるクオリティを提供しているのか、そのことを世界に発信しているのか、という点に課題があると私は思っています。プロジェクトマネジメントを教える価値や意義を、まずはSDMの学内で共通認識として捉え直し、教員一丸となってプロジェクトマネジメント教育や研究の質の高さを国内外に周知していく活動に力を入れていくべきだと思っています。