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SDM Voice|荻沼 雅美氏(修士課程2008年4月入学)

2008年に1期生として入学し、修了後は、新たなメディア創出のために様々な新規事業の立ち上げを推進する荻沼雅美氏。仕事を継続しながらSDMで学んだ動機やそれによって得たこと、入学を考えている方へのメッセージなど、熱い思いを伺いました。

Profile

荻沼 雅美(おぎぬま まさみ)

朝日新聞メディアラボ 主査(2010年3月修了)
1973年生まれ。名古屋大学大学院工学研究科修了。核融合プラズマの研究を推進。大学院修了後、株式会社朝日新聞社に入社。新聞製作システムを開発する。2010年、社長室戦略チーム主査を経て、2013年4月よりメディアラボ主査として、新規事業の舵を取る。

修了後に立ち上げた新規事業

SDMで学んだことは私の力となり、あらゆる場面で生かされています。特に、当時ALPSと言っていたデザインプロジェクト科目で学んだフレームワークは、いろいろな事業誕生に繋がっています。僕は今、朝日新聞社のメディアラボという新規事業立ち上げの部門に所属していて、実際に立ち上げた「朝日自分史」と、「朝日新聞クラウドファンディング事業A-port」を担当しています。朝日自分史は、お客様の生きた証を一冊の本にするサービスです。過去のアーカイブの中にある情報は、総理大臣や有名スポーツ選手といった著名な方のものが多く、そこに一般の方たちの情報はあまりありません。例えば、戦争時の体験記といった情報を残さないと、本当のメディアにはなり得ないと思っています。事業開始から9月1日で1年を迎え、現在100人を超えるお客様の情報を抱えています。そのほとんどが75歳以上の方ですが、これが1千、1万という数になっていくと、その時代を埋め尽くす民衆史のような、新たな切り口のメディアが出来上がると考えています。

クラウドファンディングとは「こんなモノやサービスを作りたい」「世の中の問題を、こんなふうに解決したい」といったアイデアやプロジェクトを持つ起案者が、専用のインターネットサイトを通じて、世の中に呼びかけ共感した人から広く資金を集める方法です。2011年頃からいくつか先駆者が出始めていて、我々は後発なので、メディアが持つ発信力を生かして差別化し、何とか認知度を上げていきたいと思っています。実は、クラウドファンディング自体の認知度は低いのが現状です。2割程度しか認知されていないというデータもあります。そのため、知人率が非常に高いといわれています。何とかその知人率を30%ぐらいまでに落としたいと考えています。認知度を上げるには、やはりプロモーションが重要ですね。自社媒体はもっていますが、記事として取り上げる価値がないと掲載はしてもらえません。私たちは、起案者を取材して、起案者やプロジェクトの持つストーリーや社会的価値を掘り起こし、発信しています。そういうところに注力してメディア掲載を目指したいと考えています。ファンディング事業として成功することが目的なので、自社媒体以外の競合メディアにも積極的に話を持って行き、掲載をお願いしています。

新しい知識を求めて大学院を目指す

入社10年目くらいの2008年頃、システム部という部署で会社のシステム開発・運用に携わっていました。世の中はリーマンショックを受けて沈滞ムード。会社も落ち込んでおり、技術畑ではなく、経営に近いところで力になりたいと思うようになりました。新聞社が崩れてしまうのは、社会的に良くないのではないかという正義感も勝手に掲げていました。僕には武器となるものがなかったので、大学院に行って勉強しようという選択肢がまず浮かび、いくつか受験しながら探している中でSDMを見つけ、慶應がやるSDMという新しい分野は、きっと何かすごいことが起きると直感しました。新しい場所には新しい考えの人、面白い人がたくさん集まるという肌感覚があり、MBAでは獲得できないような知識が獲得できる。文系、理系両方の先生がいらして、現状を打破するにはそういうところで勉強すると面白い結果が生まれる。そう思って入学を決めました。僕は第1期生で、最初の1年は、勉強を教わるというより一緒に学校を作り上げているような雰囲気でしたね。学生にも自分たちが引っ張っていかなくてはという思いがあり、同期はみな熱く、今でもお酒を飲み交わす仲間がたくさんできました。

僕の研究テーマは「マスメディアの顧客価値分析とジャーナリズムを支えるコミュニケーション・プラットフォーム戦略に関する研究」でした。当時はTwitterやFacebookをやる人が少しずつ出始めた頃で、我が社も「朝日新聞の電子版」を立ち上げる動きがありました。ニュースを無料で掲載して、広告から収入を得るというモデルだけではマネタイズ手法として限界にきていることがわかっていた時期でもありました。そのため、それ以外のマネタイズ手法をどうやったら見つけられるかを研究していました。朝日自分史はパーソナルメディア事業です。生きた証を永遠に残す、未来のみなさんのアーカイブ情報という社会的意義もあって事業の規模も大きい。これは上司や同僚に恵まれただけでなく、SDMでの人脈と研究テーマが上手く絡み合った結果生まれた事業だと思います。一方のクラウドファンディングは解決メディアです。新聞は世の中の出来事や課題を発掘するのは得意ですが、伝えるだけで終わってしまう言いっぱなしのメディアという感じがしています。それにワンクッション、資金を集めて解決しましょうというのをセットにして、バリューチェーンを一つにした解決メディアだと言えるでしょう。

時間を意識して、学びと仕事を両立

大学院で学ぶ場合、会社にいながらの方が後々会社に対してコミットしやすいと思います。2年間休職してしまうと、大企業ほど戻る場所がないのではないでしょうか。しかし、働きながら学ぶとどうしても忙しくなるので、どちらも言い訳しがちになります。学校に行けば仕事が忙しい、会社に行けば学校の宿題がある、と。そうならないように、僕はどちらも100%を心がけました。100%でやっていると、周囲の人も認めてくれるようになります。とにかく眠る時間も削って、時間は全部使いました。コツは、時間を細かく意識して使うことです。何時までに何をする。自分でなくてもできる仕事だったら積極的に他の人に任せる。そうやっていると、それまで長文だったメールが3行になるなど、いろいろなことが効率化されていきました。

MBAは過去の成功パターンを学んでそれを生かし、そこから結果を出そうとする手法なのに対して、SDMはまだないものをデザインする手法を学ぶので、新しい形を作り上げることができます。しかも手法は時代に合わせてどんどん変化していきます。ですから、何かシステムを大きくデザインし直したい人、ゼロから1を作り出すタイプの人に向いているのではないでしょうか。授業料が高いと思う人がいるようですが、僕自身はそれ以上に多くのものを得たと思っています。何かに挑戦したい人は、投資した分を取り返してやろうというぐらいの気持ちで来ると、必ず結果が出るでしょう。SDMという壁を叩いて成長して、自分の会社、日本や世界を変えていくような人が集まってくれたらいいですね。そんな人たちと、修了生として交流できる場をたくさん作っていきたいと思います。