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SDM Voice|五百木 誠准教授(SDM教員)

2014年4月の着任以来、必修科目のひとつである「デザインプロジェクト」を担当する五百木誠准教授。特定の技術分野や対象に絞り込んで深く専門性を追求する従来の大学院と比較し、基盤となるような考え方や設計の仕方・作り方を追求するSDMの特徴や魅力、また、ご自身の研究について伺いました。

Profile

五百木 誠(いおき まこと)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授
三菱電機(株)にて「きく8号」「ひまわり7号」を始め数多くの人工衛星のシステム設計を担当。その後、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構で宇宙産業の海外展開支援と国際協力推進を担当し、欧米を始め、アジア・アフリカ・南米各国を訪問。 2014年4月から慶應義塾大学大学院SDM研究科准教授。専門分野はシステムズエンジニアリング、人工衛星設計。

学生と共に学ぶ

私は、修士1年生の必修科目「デザインプロジェクト」を担当しています。このデザインプロジェクトは、企業や自治体などが抱える実際の課題に対して、5,6人のグループで問題定義からソリューションの創出までを行うプロジェクト型講義です。背景となる基本的な考え方から様々なテクニックまでを5ヶ月間で学びます。講義は3つのフェーズに分かれていて、フェーズ1では新しいアイデアを生み出したり、発想を整理したりすることに役立つ様々な手法を、演習を交えながら学びます。フェーズ2では、学んだ手法を半ば強制的に全部使ってみて理解を深めます。フェーズ3では、教員からのフィードバックを受けながら、それまでの知識と経験をフルに動員して、新しいソリューションを生み出していきます。

新年度が始まってから5ヶ月間つきっきりで担当しましたが、私もいろいろと勉強になりました。始めた時には予想もしなかったようなレベルにまでたどり着けるのが、この科目の面白さです。その裏返しとして、プロセスやゴールが予想できないまま流れの中に放り込まれて、あがいているうちにどんどん時間が経っていくため、出口が見えないことに戸惑う学生も多いようです。時間とエネルギーを要する大変なプロセスを経験しますが、学生にはその中に面白さと意義を見出してほしいと思います。全部終わって振り返ってみたとき、デザインプロジェクトを進めていく間に経験したことが、新しい能力や新しいものの見方となって身についたな、修士研究や今後仕事をしていく上で役に立ちそうだな、と学生に感じてもらえるよう、年々内容の改善を続けています。

自分の研究に合っているSDMの学問体系

今は研究テーマを絞りこんでいる最中なのですが、何か特定の技術を深く極めるよりも、むしろ、対象物に対してどのように考え、どのようにプロセスを進めていくと良い設計ができるかを抽象的に考えることが、自分としてやるべきことだと考えています。分野に依存しないやり方があるはずだという仮説に対して、いろいろな方向からアプローチをしていくわけです。新しいテーマについて、どのように体系的に考え、俯瞰的に見て、適切に作り上げていくかということを考えていきたいと思います。

SDMでは、一緒に仕事をする相手も学生も専門分野が多彩なので、大変エキサイティングな日々を送っています。私はSDMに移る前の25年以上、宇宙関係の仕事一筋でしたが、これまで一生懸命やっていたことに関して少し抽象的に、言い換えると抽象度を上げていけば、全く異なる分野で活かせる部分がたくさんあると強く感じます。そういう意味でも、特定の技術分野、特定の対象に絞り込んで深く専門性を追求する従来の大学院ではなく、SDMのように共通基盤を通して広くいろいろな方と関係を作っていくやり方が私にはとても向いていると思います。

能を研究対象に

SDMでは、物事をシステムとして捉え、それをいかに適切にデザインするかというSystems Engineeringを基本的な学問基盤と位置付けています。今、能をシステムとして捉え、能楽師と周りを支えるスタッフとの関係性を分析し、そこから新しいシステムデザインができないかということに興味を持っています。始めたばかりでまだ研究と言えるような代物ではありませんが、今まで必ずしも対象になっていなかったものの中にも、役に立つものがあるのではないかと考えています。能がいかに体系的に伝承されてきたかという点にも、学べることが多いのではないかと思っています。

あらゆる分野で行われている手法について、抽象度を上げながら考えていくと、あるレベルに達したとき、全く別のものにも適用できるような汎用性が出ることは、普段から実感として感じています。能からある特徴的なものを取り出して、その抽象度を上げていき、それを法則として整理できれば、それを他に適用すると新しい考え方ができる。抽象度を上げた後、別のところに下ろして、具体的なものに適用していくという、「抽象度の上げ下げ」の中に新しい考え方やアプローチが見つかる。そうすると、今まで全く関係ないと思っていた分野のノウハウや知識、やり方を適用できる範囲が大きく広がるのではないかと思っています。私が今一番やりたいことは、いろいろな方向から汎用性のある新しい手法を探していくことです。

専門能力を支える基盤を強化する

SDMで学ぶことは、必ずしも特定の分野の専門性を追求するだけの学問ではありません。むしろ、今やっていること、これからやりたいことを学ぶ上で基盤となるような考え方や設計の仕方・作り方などをもう一度学び直したい、それによって自分の能力の次元を上げたいという意欲を持った人にぜひ入学してほしいと思います。専門能力を高層建築に例えると、SDMで学ぶことの一つは、高い構造物を支える基盤となる基礎工事だとも言えるのではないでしょうか。基礎を一度きちんと整え、かつ強化しておくと、その上に高い建物がしっかりと立てられるようになる。そういうイメージを持っています。SDMを修了するときには、ものの見え方、課題へのアプローチの仕方も一回り成長しているでしょう。元の職場に戻ったり、新しい会社に入ったりしたとき、今までの自分とは異なるアプローチや方法で新たな力が発揮できるようになるのではないかと思います。

最近、いろいろな会社や組織が抱えている問題の解決に、我々が持つアプローチの仕方が求められていると実感しています。その期待に応えるためにも、まだまだ頑張っていかなければなりません。SDMにいると、自分が日々成長していると感じられます。学生が努力によってどんどん変わっていく姿を見ることができます。教員も学生も成長を感じられるエキサイティングなこのSDMで、もともとの専門分野である宇宙関連のテーマにもぜひ取り組んでいきたいと思っています。