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SDM Voice|ナオミ・シムンバ氏(後期博士課程2018年9月入学)

奨学金を得てザンビアから日本へ渡った後期博士課程の留学生ナオミ・シムンバ。彼女がSDMで始めた学際的研究は、カンボジアなどの人々の暮らしを変える可能性があります。彼女の思いについて話を伺いました。

Profile

ナオミ・シムンバ

2015年12月 University of Zambia 卒業
2018年9月 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了
2018年9月 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科後期博士課程入学

ザンビア大学電気工学科で学士号を取得後、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の修士課程を修了。2018年、同研究科の博士課程へ入学。シムンバ氏の研究では農業界において携帯や衛星データを取り入れたフィンテックシステムを設計しています。特に関心があるのは、持続可能な社会の構築に貢献するための技術ソリューションで問題解決に取り組むことです。研究活動の一環として、携帯端末を利用した公衆衛生改善のためのマラリアのハザードマッピングやSpaceX社主催の超高速鉄道「ハイパーループ構想」のコンペ等、多くのプロジェクトに参加しています。得意分野としてはデータサイエンスや地理空間分析、システム・デザイン等の分野が挙げられます。

ワンクリックで開く世界への扉

母国であるザンビアでは電気工学の分野で学士号を取得しました。しかし、それはとても狭い範囲を対象とした学問で、現在のように変化の激しい時代には、より広い視野を持ち、電気工学に関する知識と他の分野に関する知識を上手に統合する方法を学ぶ必要があると感じました。マサチューセッツ工科大学のシステムデザインとマネジメントプログラムについて聞いたことがあり、同じようなプログラムがないかとネットで情報収集をしているとSDMに行き当たりました。授業で学ぶことに加えて、実際の企業の活動にも携わり実社会での経験も得られるという点に魅力を感じました。

学業・研究に専念するため、学費や生活費をサポートしてくれる、日本の文部科学省(MEXT)が実施している国費外国人留学生制度に申し込み、第一希望だったSDMへの出願が可能になりました。選考の過程で、希望校の先生と直接連絡をとるようにMEXTから指示された時に、ちょうど神武教授のプロフィールを拝見していました。その場でさっそくスカイプで連絡してみることを決めたのですが、今から3、4年前のことですね。その後、入学試験にも合格し、2016年9月に修士課程、2018年9月に後期博士課程へ進学しました。

日本で学ぶ上での文化の違いや言語の壁がしばしば話題に上りますが、実のところプログラムは多くの留学生が織りなす多様性に彩られていました。私のクラスメイトはメキシコやアメリカ、ドイツ、イギリス、そしてアジア地域からやってきた留学生たちが多く、私にとって、直面するであろう言語の壁よりむしろ、SDMで学びたいという事実の方が重要だったのです。授業は英語で行われているので、学校では日本語を使う必要はありませんでした。先生方は英語を話しますし、研究室でももっぱら英語が使われます。授業では必要とされないものの、日常生活や社会生活においては日本語はもちろん有益です。

価値のある学びはすぐそこに

入学してすぐに「システムデザイン・マネジメントとは何か」といったSDMの基本的概念を学びました。生粋の技術畑出身の私にとって目新しかったのはSDMは公式や計算より、むしろ過程を理解したり、直接的な経験を得ることに重きが置かれている点でした。それこそSDMの中心となる概念だったのです。講義をただ聞いて、書き写すという典型的な授業のあり方とは趣を異にするものです。

SDMの一般的概念を理解するためには、大学学部レベルの教養は必要ですが、同時に、SDMでの研究は非常に変化に富んでおり、社会で身につけた技術的なスキルも重要と感じています。SDMの良い点は必ずしも技術に焦点を当てたプログラムではないことです。文系の学部教育を受けてきた人や非技術系の研究を行った人もいます。SDMの基本的概念は、技術系・非技術系、文系・理系、はたまた人間などを広くシステムとして捉え、同じ基本的概念を用いて俯瞰的に物事を考えるというものです。

修士課程の必修科目の一つとして特別研究科目があります。私のプロジェクトでは神武教授の研究室とカンボジアの企業の連携構築に携わりました。カンボジアでは経済的に取り残された農村部の農民たちにクレジットシステムを提供するために携帯電話や衛星データの運用を試みました。実際にカンボジアを訪れ、農民の方々にもお会いし、現状評価のため、システムデザインの分野でいう「環境分析」と「利害関係分析」を行う、という経験を身をもってできたことは良い機会でした。そこで得た情報に基づいて仕組みを設計し、カンボジアにおいてこのシステム実現に挑んでいます。修士時代には自分の研究について初となる論文を発表し、ボストンとローマで国際会議にも出席しました。現在、それら会議のために書いた論文を編纂し、自らの研究を学術誌で公表することを目指しています。それはまた後期博士課程の修了の要件の一つでもあります。

修士課程と後期博士課程では課題が大きく異なると感じています。修士課程では授業に出席するのと同時に、研究にも多くの時間を割かなければならず、時間のマネジメントが求められます。授業に出席する時間と課題に取り組む時間、研究、研究のための出張、これらを同時にこなすのは実に難しく、バランスが取りにくい時期もありました。しかし、一度こなしてみると、次からはずっとたやすくなるものです。当時の修士課程と比べ後期博士課程では研究の質は格段に高いものが求められます。研究領域に新たな価値をもたらす様なユニークなものを見つけることに力を注がねばなりません。

問題解決能力を実践で研ぎ澄ます

SDMでは、すぐさま問題解決能力を訓練されます。多くの実践的経験をし、グループでの課題に多くの時間を費やします。私の場合、近い研究内容を持つ学生が多い神武教授の研究室を選びました。毎週月曜の夜には定期ミーティングがあり、それぞれが今取り組んでいることを発表し、お互いにアドバイスをしました。自分が今、研究のどのステージにいるのかを共に考えたり、あるいは向かうべき方向性を指し示したりと様々な意見の出るミーティングは楽しいものでした。上手なやり方をしている人があれば、その人の成功から学べば良いのです。

もう一つのSDMの興味深い点は、研究の多様性です。私は機械学習の運用や携帯電話や衛星データの為の地理空間分析に重点的に取り組んでいますが、ある学生は法体系の為のブロックチェーンテクノロジーに取り組んでいます。またある学生は刑務所の改革に、そしてまた別の学生はボランティアマネジメントシステムに取り組んでいます。彼らの研究内容は実に様々で、研究室のミーティングでは毎回、複数の話題がのぼる点に驚かされました。それもまたSDMの面白い点と言えるでしょう。

SDMでの経験は、多くの点で私が最初に抱いていた期待を超えて面白いものでした。挑戦を志す者であれば、世界中のどこからでもSDMは歓迎してくれます。ここは本の内容を暗記し、先生が言うことを記憶したり、黒板に書かれた内容をノートに書き写す様な学びの場ではありません。これまでとは異なる環境で、ユニークな方法で学ぶ挑戦をしたいのであれば、私は迷うことなくSDMを勧めます。