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SDM Voice|西村 秀和教授(SDM教員)

SDMで教鞭をとって10年となる西村秀和教授。今が折り返し地点だと話す西村教授は、この先、何を目指しているのか? システムズエンジニアリングにかける熱い思いを語ってもらいました。

Profile

西村 秀和(にしむら ひでかず)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授

2007年4月(SDM設立準備のため)より現職。専門はモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)、システム安全、制御システム設計、ユニバーサルデザ イン、環境共生システムデザイン。著書に「システムズモデリング言語SysML(翻訳)」の他、「MATLABによる制御理論の基礎/制御系設計」(東京電機大学出版局)がある。一般社団法人日本機械学会フェロー。工学博士。

俯瞰が大事。でも、神は細部に宿る

SDMで教鞭をとるようになって10年、システムズエンジニアリングの研究と教育をしています。私は自動車が好きなこともあり、それに関連する研究をしてきましたが、最近では自動運転車が交通環境の中で走行する際の安全性を研究テーマの一つとしています。自動車メーカーのアプローチの多くは、歩行者や自転車をどのように検出して危険を回避するか、といったような技術的な側面を中心にしています。それに対して、私の研究は、どのような道路環境で、どのようなアクター(歩行者や自転車、バイク、ドライバーを含む)がいるのかといった、外部と自動運転車との関係性を明確にするところから始まります。その上で、自動運転車がどのような安全性を備えているべきなのか、というアプローチで研究をしています。

SDMでの研究は、技術そのものにフォーカスを当てるだけに留まらないところが重要なポイントです。ある技術的な研究テーマを深く掘り下げることはとても大切なことですが、その外側に何があるか、というところを俯瞰してみると、根本的な課題の設定や捉え方に新たな気づきが生まれます。視野がグッと広がるのです。自動運転車に関する研究の場合も、こうした俯瞰的な視点を生かして、「考えておくべきことが漏れているのではないか」ということから研究をスタートさせました。この視野の広がりこそが、SDMらしさであり、面白さだと感じています。これは、非常に普遍的な学びで、普段の生活や人とのコミュニケーションにも応用できると思います。

もちろん、俯瞰の視点だけでなく、細部の視点も大切です。私は「神は細部に宿る」という言葉が大好きです。「木を見て森を見る」そして「森を見て木を見る」。このように、俯瞰と細部の視点を自在に使えるようになるのが、SDMの特徴です。

半学半教で、刺激し合う日々

「俯瞰」と「細部」の両方の視点を養うことにつながるのですが、必修授業としては、システムアーキテクティング&インテグレーションを担当しています。
まず、"システムアーキテクティング"の部分ですが、製品やサービスをつくり上げる際に"アーキテクチャ"の視点が必要だ、ということを学びます。アーキテクチャという言葉の定義は難しいのですが、製品やサービスが、どのような環境で用いられるのか、何を誰に提供するのかを明確にした上で、どのような機能が必要かを分析し、必要な機能を実現するための構成要素と、それらの関係性を定めたものを意味します。私はこのアーキテクチャを定義するための教育を行っています。
アーキテクチャを定義することの利点は、製品やサービスをつくり上げていく過程や世の中に提供した際に何か不具合が起きた場合、アーキテクチャを確認すると、不具合の原因がわかることです。そして、どう対処するとそれが起こらないか、あるいは防げるか、ということがわかります。アーキテクチャを定義することによって、製品の製造やサービスの運用時に適切に対処できるようになるのです。これは俯瞰と細部の両方の視点があるからできることです。

次に"インテグレーション"ですが、これは統合を意味し、分解と対をなす言葉です。アーキテクチャで、互いの関係を明確にした上で構成要素にまで分解したとしますと、分解したものを"統合"していくことを学ぶのがインテグレーションの醍醐味です。

他にも、モデルに基づくシステムズエンジニアリングやシステムズモデリング言語(SysML)を用いた講義も担当しています。SDMは社会人の学生が多いので、講義の内容によっては、教員と学生が互いに教え合い、学び合う、いわゆる"半学半教"になるケースもあります。お互いに「そういうことか」と納得するのは、刺激でもあるし、やりがいでもあります。

システムズエンジニアリングの普及が、よりよい社会につながる

先にも述べたとおり、SDMで教鞭をとるようになって10年です。定年退職まで、あと11年なのですが、ちょうど今が折り返し。これからは、システムズエンジニアリングのさらなる普及を目指したいと考えています。それが日本の、ひいては世界の発展につながると信じています。

そのためにも、今、技術系の仕事をしている方々に、「もっと現状を良くしたい」と思ってSDMに入っていただきたいですね。その答えの一つに、システムズエンジニアリングがあります。ぜひ、SDMでシステムズエンジニアリングを学び、また社会に戻ってそれを活用して実践し、その有用性を周りの方々に伝えていただきたいです。それが、システムズエンジニアリングの普及と、より良い社会につながる。そう私は思っています。