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SDM Voice|プラフル・カストゥーレ氏(後期博士課程2016年9月入学)

SDM Voice|プラフル・カストゥーレ博士

今回は、2020年9月に後期博士課程を修了されたプラフル・カストゥーレ氏に、SDMのカリキュラムの特徴や研究テーマの選び方、SDMで学んだアプローチを故郷インドでのプロジェクトに生かしたいと考えた経緯について伺いました。

Profile

プラフル・カストゥーレ

プラフル・カストゥーレ氏はムンバイ大学(インド)で電子工学の学士号を取得したのち、慶應義塾大学大学院でシステムエンジニアリング学の修士号とシステムデザイン・マネジメント学の博士号を取得するため来日しました。研究テーマはシステム分析、複合創発システムの設計、システムオブシステムズ分析、マルチエージェントシステムの統合管理です。また持続可能で効率的、総合的なシステムデザインに向けたバイオミミクリーの応用にも注目しています。SDMの学生時代には、交通システムにおける渋滞を生む行動や、蟻の群体行動に着想を得て、交通の効率化を図る知的交通システムの設計について研究しました。現在は、コンチネンタル・オートモーティブ社でシステムの革新を担当するシステムエンジニアとして勤務。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科、NISM LABの客員研究員でもあります。

SDMカリキュラムの特徴

慶應義塾大学で学ぶために初めて来日するまでは、祖国であるインドに住んでいました。学部卒業後は、学問的にも文化的にも挑戦しがいのあるどこか別の地に行きたいと思っていました。そこで、東に目を向け見つけたのが、日本政府が主催する「グローバル30」プログラムの一つであるシステムデザイン・マネジメント(SDM)であり、まさに私が求めていたものでした。私が学士課程で学んだ工学を、退屈な方程式で溢れた砂漠に例えるなら、SDMは実践的応用の泉があるオアシスです。単なる数学ではなく、その背後にあるシステム全体や潜在的解決策について考察することができるのです。

SDMには注目するべき特徴が数多くあります。1点目は、問題解決型のシステム設計手法を採用したことです。2点目は、複数の分野にまたがる様々なステークホルダーや利害関係者を考え、それらを結びつけるという多面的な視点です。ソリューションを設計する際には、同時に、構築しようとするシステムの複雑さを把握する必要があります。その上で、製品、システム、ソリューションのライフサイクルを評価し、他の既存システムとどのようにリンクするのかを考えたり、あるいは、他の問題を解決できたりするのです。この総合的なアプローチはSDMカリキュラムの核となるもので、極めて重要であり、新しいアプローチです。これまで科学者たちの多くは、CやD、Eを考察することなく、AとBの関係性を理解するといったように、物事を単純化することを重視してきました。SDMのアプローチは真逆です。AがB、C、D、Eとどのように関わっているかを明らかにし、それらの関連性を理解するのです。この複雑さを受け入れることが大事だと思います。

蟻に学ぶ交通渋滞のソリューション

修士課程と博士課程での研究はどちらも交通渋滞を対象とし、渋滞を回避するために、蟻からどのように学ぶことができるかを考えました。インドのように経済発展の只中にある国にとって交通渋滞は深刻な問題です。特にムンバイやニューデリーといったエリアで見られる交通渋滞は世界でも最悪のレベルです。しかし、蟻は渋滞を発生させずに働くことができると証明した研究があり、さらに興味深いことに、蟻の中にはその種類によって完全に盲目のものもいるのです。技術的な詳細を述べると、蟻は大まかな交通状況の把握に化学物質による信号を用いています。例えば、人間のドライバーは通常、速度などの判断を「先行車との距離」という一つのことに基づいて行います。これは非常に限られた情報です。一方の蟻は、前方にいる100匹の仲間の動きを分析して、その情報に基づいて渋滞を避けるために自らの動きを調整することができるのです。

この事象を現実世界に当てはめると興味深いことが見えてきます。研究者として、私はこの事象をいくつかのパーツに分けて捉え、まず、全体の中でどのように情報を収集するかを分析します。高度道路交通システムの技術はすでに確立されていますから、それを私たちの予知能力と組み合わせることで、視覚情報以上に交通状況を理解することができます。さらに、このことは、より大きな枠組みの中で活動する際に、利己的な人間をいかに納得させられるかという、真に取り組むべき課題、専念するべき研究の存在に、気づかせてくれます。蟻はこの利己的行動の問題を克服することを学び進化しましたが、私のSDMにおける研究はこの仕組みをより理解することです。

みんなは一人のためにではなく、一人はみんなのために:
システムデザインのスポーツへの応用

来日前は、およそ10年間柔道をやっており、修士課程、博士課程の期間も慶應柔道部で柔道を続けました。チームメイトの一人は世界ジュニアのチャンピオンでしたが、驚くことにチームの最年長者ではありませんでした。四年生が部を統率し、三年生がチームを支え、一年生と二年生は三年生を支えるという、日本の運動部にはヨーロッパやアメリカ、インドとは全く異なるやり方で世界レベルの組織を作り上げる仕組みが備わっています。日本の運動部の多くにはコーチがいません。学生たち自身で部を運営し、練習の計画を立て、スキル向上のために共にトレーニングに励みます。勝者総取りという風土が当たり前のスポーツの世界にあって、このことは私をシステムデザインの観点から魅了しました。日本の運動部には、チーム全体を勝者として讃える運営スタイルを見ることができます。

同じアジアにありながらも、日本とインドは全く異なることから、私はSDMの問題解決のアプローチをインドで応用することを試みています。インドで以前からの柔道仲間たちと協力して、個人ではなくチームでチャンピオンとなるシステムを構築することを模索しています。日本以外では通常、オリンピックに出場できるような素質を持った一人を10,000人から選び、その一人の育成に力を注ぎます。しかし驚くべきことに、日本では10,000人全員に力を注ぐのです。結果、その中から一人、二人の類まれなアスリートが生まれます。今、私はインドの同僚たちと、インドの高校や大学レベルの柔道家が日本的アプローチから受ける恩恵について考察しています。それ以上に、自らのコミュニティの外でスポーツをした経験を、全く、あるいはほとんど持たない人々に、柔道がもたらす価値についても考察しています。これは私の柔道愛に、どのようにSDMを応用できるかを示した一つの例です。

SDM研究が導く最先端のキャリア

SDMとの出会いは、私に価値ある経験と異なるシステムを理解し発展させる機会を与えてくれました。例えば、柔道のケースのように様々な事柄を日本から学んでインドに当てはめる洞察力を手に入れました。反対にインドから学び日本に取り入れることができる事柄もあり、それは将来的な協力や、新たな価値創出の機会になるでしょう。私は現在、コンチネンタル・オートモーティブ社でシステムエンジニアとして自動運転システムの技術革新に取り組んでいます。自動運転車両には駐車場問題の解決など、しっかりとしたインフラが整備されている必要があります。自動運転車両が目的地で乗客を降車させ、その後、車両自身が駐車するというのが私たちのアイデアの一つです。その場合、適切な区域に利用可能な駐車場が用意されていることが必要であり、現在、そうした課題に取り組んでいます。インドでも渋滞緩和のために高度道路交通システムの検討を始めています。私たちの研究が日本やインド、ヨーロッパに限らず、広く世界であまねく問題の解決に寄与していることに喜びを感じています。