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SDM Voice|スティーブン・ウルエタ氏(後期博士課程2018年9月入学)

SDM Voice|スティーブン・ウルエタ専任講師

今回は、2021年9月に後期博士課程を修了されたスティーブン・ウルエタ氏に、授業におけるテクノロジーの課題と、SDMで得たその解決の道筋を伺いました。

Profile

スティーブン・ウルエタ

目白大学外国部学部専任講師。教育用VRシステムの設計と対面学習や遠隔学習におけるVRシステムの実用化について研究しています。アメリカのケースウエスタンリザーブ大学を卒業後、東京大学大学院で修士(学際情報学)、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)で博士(システムエンジニアリング学)を取得。日本の企業で技術者としての活躍を経て、埼玉大学、東京大学、電気通信大学など首都圏の教育機関で科学英語の指導を開始。現在、バーチャルな留学体験を目的とした、大規模なVRシステムの実用化に取り組んでいます。

導入の壁を乗り越え、最新技術を授業へ

私の研究テーマは、大学教育における新技術を、一般の教員にとってより使いやすい存在にすることです。最新技術を授業に取り入れることは常に私の関心事項でしたが、導入には多くのハードルがありました。ARやVR、AIといった最新技術の知識や経験を持たない教員は少なくありません。例えば、パンデミックの影響で、学生が海外に留学する機会を失ったと多くの教員が口にします。しかし、バーチャル留学プログラムを用いれば、その代替となる体験を提供できます。ARやVRによるコンテンツによってその国に触れることは、学生の留学への関心を高めることとなるでしょう。

SDMでは、これらの最新技術導入のための複雑な作業と、教員による運用を分担する「デュアルフレーム・システム・デザイン」という新しいプロセスに関する論文を書きました。複雑な作業は、その教育機関所属の技術系職員が行うことにより、テクノロジーの知識を持たない一般の教員でも最新技術の運用が可能となるという考え方です。そのためには、機能やシステムをサブシステムで管理する必要があります。その一つが教育設計モジュールで、授業での最新技術のスムーズな運用を図るものです。私はこれを自分の授業でも運用していますが、非常に効果的です。多くの学生がAR/VR技術を利用できないことを危惧していましたが、今や全ての学生がスマートフォンを持っています。つまり、彼らのスマートフォンを活用することで、非常に低コストでAR/VR体験が実現し、技術導入のハードルを大幅に低くすることができるのです。

SDMで出会った進むべき道

SDMと出会った当時を振り返ると、多くのテクノロジーはまだ基礎研究の段階、あるいは非常に専門性の高いものでした。より広い視野で俯瞰的な視点を持つ実践的な語学教育にテクノロジーを活かす方法を探しており、そこで見つけたSDMの存在は、まさに私がやりたいことと一致していました。入門コースでは、フレームワークの使い方を深く理解することができました。グループワークでは、システムの設計やアーキテクチャー図の作成をし、これによりシステム構築のプロセスやテクニックを理解することができました。これまでIEEEガイドラインに則り、アジャイル型かつ段階的なアプローチに基づいたアーキテクチャー図やシステム設計プロセスを研究してきました。現在では、システム設計フレームワークが全ての研究と多くの授業の基礎となっています。

工学とは異なる専門分野で活躍されている谷口智彦教授や谷口尚子教授、その他の博士号取得者の方々から、論文発表の手法などSDMの持つ幅広い有用性について多くの気づきを得ました。指導教官の小木哲朗教授は、専門分野も近く、とてもフレンドリーで私の良き理解者でした。私たちは、東京のコンサルタント会社である三菱総合研究所で共に働き、その後、同じ大学の大学院に進学しました。また、VRやARへの興味も共通していました。学問の世界で、新しい分野へ進むことは非常に不確かなものですが、彼は私の研究が正しい道へと進めるよう、多くの助言を与えてくれました。

SDMの実践と魅力的な学習体験

授業で最新技術を使うことを最初に思い描いたのは、東京大学の修士課程に在籍していたときです。ちょうど、アメリカやイギリスで博士課程に進むことを検討し始めた頃でした。しかし、日本について改めて見つめ、日本における3Dプリンターやロボット、テクノロジーのもつ意味や「ものづくり」の文化について振り返り、日本で博士課程に進むことを決心しました。言語学の研究者は多くいましたが、AIやVRなどの新技術の英語教育への活用は始まったばかりで、研究者はごくわずかだったのです。言語教育におけるVRの導入を研究している人がほとんどいなかった中で、私は自らの活躍の場を見つけたと言えるかもしれません。

目白大学では、学科の全教員にVRコンテンツを提供する予定であり、成功すれば産学連携に参加して日本全国に製品を提供することも可能でしょう。授業では通常、VR180や3Dステレオスコピック360などのVRフォーマットでコンテンツを作成し、それをYouTubeや大学のイントラネットにアップロードして学生に提供します。これらのコンテンツを学生にとってより使いやすいものにすることが私の研究のテーマです。例えば、QRコードを利用することで、学生は簡単に動画を視聴することができます。技術の新しさ以上に、その授業での実用性を高めることが私の仕事です。VR/AR分野では、日本の英語学習者向けに開発されたコンテンツはほとんどありません。20ないし30の言語に関しても同様で、最新技術の世界には大きな隔たりがあると思っています。

VRや教育技術が学習に与える影響については活発な議論がなされています。VRは素晴らしいけれど、本当に学生たちにプラスとなるのか。答えはもちろんイエスです。より重要なのは、留学などに対する学生の関心が明らかに高まり、それが目に見える学習成果に繋がっている点です。一方で、VRが彼らの留学や海外旅行への興味を削ぐ可能性もあります。映画「マトリックス」で描かれたように、メタバースで誰もが繋がる世界がいつか実現するかもしれませんが、VRは実際の教室での授業を強化するものです。少なくとも今後20年、30年の間に実際の留学体験に取って代わることはないでしょう。私が実現したいのは授業の代替手段ではなく、これまでの学習のあり方を強化する方法です。

SDMの最も優れた点はその汎用性の高さにあります。システムデザインを言語教育学のような分野で応用することが可能となれば、より一層様々な分野での活用が広がるでしょう。大学では、成績評価システム、授業システム、出席システム、メディア、アップロード、閲覧システムなど様々なシステムが混然としており、それらを統合し使いやすくすることが課題となっています。こうした課題の解決は大きな利益をもたらします。もし、進みたい分野が定まっていて、SDMを学ぶことを検討しているならば、是非とも挑戦するべきです。システムデザインの考え方はどのような分野においても応用が可能です。システム思考を用いて皆で考えれば答えは必ず見つかります。例えるなら、SDMはアイデアの種を育ててくれる温室、または、方向性を指し示してくれる学びの羅針盤のような存在です。そのフレームワークは学ぶものにとっては等しく、非常に有用で仕事上欠かせないものとなるでしょう。