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SDM Voice|谷口 尚子准教授(SDM教員)

政治行動論や政治過程論などの政治学を専門とされる谷口尚子准教授。SDM研究科では、政治のみならず、広く一般的な人々の心理や行動を分析する研究や方法論についての研究などを推進されています。2016年4月に着任され、日々研究教育に従事されているSDM研究科の印象や期待について伺いました。

Profile

谷口 尚子(たにぐち なおこ)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科准教授

東京工業大学准教授を経て現職。専門分野:政治学(政治行動論、政治過程論、政治学方法論、政策研究)。特に「普通の人にとって政治とは何か?」「どんな社会システムが人を幸福にするか?」という研究目的で調査・実験・統計解析を行う。著書:「現代日本の投票行動」(慶應義塾大学出版会)など。

政治における日本人の意識、行動を研究

SDMには、今年度着任いたしました。政治システム論、社会調査、データ解析、ディベート法などを担当しています。私は、慶應義塾大学文学部で社会学や心理学を学ぶ中で、世間一般の人々の意識や行動がもたらす影響の大きさに関心を持ちました。こうした影響に関する研究は、実は革命や戦争における動乱をきっかけに始まりました。しかし平時であっても、資本主義経済では多くの消費者に物を買ってもらうことが必要ですし、あるいは民主的な選挙でも多くの有権者の票を得なければ勝てません。ですから現代では、「一般の人々が主人公」だからこそ、政治や経済、社会において、大勢の人たちの心や行動を動かすメカニズムを知ることが、大事になっていると言えます。こうした関心から、法学研究科政治学専攻に進み、調査・実験・統計解析などを使って、有権者の政治意識・政治行動を分析する方法を学びました。

研究例の1つは、選挙における投票率についてです。「マニフェスト選挙」が始まった2000年代初めに、心理学や経済学で使われていた実験法を取り入れ、インターネット調査をベースとした大規模な調査実験を行いました。その結果、被験者にウェブサイト上にある1つの政党のマニフェストを閲覧してもらうよりも、複数の政党のマニフェストを見比べてもらった方が、実際の選挙における被験者の投票参加率が上がりました。また、「元々投票に行く気がない被験者」にマニフェストを読んでもらってもあまり効果はなく、どの政党にするか、誰に投票するか決めかねている被験者に読んでもらうと、投票を後押しする効果があることが分かりました。これは、ある商品を買うか買うまいか迷っている消費者に対し、何らかの選択肢を示して比較できるようにすることで、購買意欲に火をつけることができるのと似ていますね。このように、学生には政治に関わることだけでなく、広く一般的な人々の心理や行動を分析する研究や方法に関心を持ってもらえたらと思います。

「実践」を見据えた研究を行うSDM

私の別の実験研究では、選挙で2つの勢力が拮抗して競争している場合、特に「少し負けている側」の投票率が高くなることを明らかにしました。これは、最近のアメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱に関する国民投票のように、「やや劣勢」と見られていた側が「まさかの勝利」をおさめた現象に通じます。「あともう少しで達成できる!」という時点で、人は大きな力を発揮する可能性があるのですね。より幅広い現象に応用すると、クラウド・ファンディングやスポーツのトレーニングなどにおいて、初めから目標を高く設定するのではなく、「もう少しで届く!」と思えるようなレベルに設定することで、目標を越えやすくさせることができるかもしれません。

ある現象を抽出したり、課題や問題点を指摘したりする研究にも意義はありますが、SDMでの研究は、実際に社会や人の役に立つことを目指して展開していくことが重要です。そのような方向の研究を行うために、研究者としても教育者としても、自分自身がさらに成長しなければならないと感じています。教員の仕事の基本である、いかに学生を助け、修士・博士を輩出していくかということに加え、一人のプレイヤー(研究者)として、世間が「面白い!」と思える研究を生み出していかなければと思っています。

SDMは「加熱器」、そして「加速器」

新卒・社会人・留学生など、SDMの学生は実に多様で、大きなパワーがあります。限られた時間とリソースを工夫して使い、SDMで何とか多くのものを得よう、吸収しようという熱意を感じます。社会人や留学生から、新卒学生は多くの知恵や経験について学びますし、その逆のルートにおいても、大いに刺激があるのではないかと思います。各研究室の間に壁はなく、教員同士が常に話し合い、自然と学生を複数の教員で指導する体制が生まれています。様々なプロジェクトやイベントを、学生と教員が一緒になって運営するなど、他ではなかなか見られない素晴らしい環境がここにはあります。

SDMは「加熱器」であり、「加速器」のような場所です。私が最初にSDMの授業に参加させてもらった時、教室全体が「熱い!」と感じました。研究科全体が熱を持っているので、例えば、学ぶ意欲や社会で活動する意欲が停滞してしまった人も、ここに来れば次第に温まり、熱を帯びていくのではないでしょうか。さらに、ここで集中的に学んだことや、得られた人的ネットワークを生かして、修了後は就職・キャリアアップ・研究などそれぞれの目標に向かって、スタートダッシュできるでしょう。つまりSDMは、修了後の皆さんの活躍を後押しする「加速器」でもあるように思います。こうした好環境を維持するには、研究科としての理念・根幹を大切にしながら、学生も教員もみんな常に好奇心を持って、アップデートしていく必要があるでしょう。ともすれば毎日は忙しく過ぎてしまいますが、情報収集アンテナの感度を上げ、多様な人々と関わるチャンスを大事にしたいものです。