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SDM Voice|高野 研一教授(SDM教員)

ヒューマンエラーをなくすことを命題に、ヒューマンファクターとリスクマネジメントに関する研究に取り組む高野研一教授。SDM設立当初からの教員として、創造性に関するSDMでの取り組みや、設立から現在までを振り返っての組織としてのSDMについての自己評価、学生へのメッセージなどを伺いました。

Profile

高野 研一(たかの けんいち)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授

元・財団法人電力中央研究所上席研究員。専門分野:大規模技術システムにおけるリスクマネジメントとヒューマンファクター。著書(訳書):「組織事故」「保守事故」(日科技連出版)など多数。組織安全・根本原因分析など豊富な安全管理の実務、コンサル経験。

人に焦点を当てた研究

私の専門領域は、ヒューマンファクターとリスクマネジメントです。基本的な命題はヒューマンエラーをなくすこと。30年以上に渡り、巨大で複雑なシステムの中でいかにリスクを減らすか、特に人間サイドの問題、ヒューマンエラーについて、組織やチーム、個人に焦点を当てて研究しています。人間は自分で判断し行動していると思いがちですが、実は7割から8割は属している組織やコミュニティによって行動の制約を受けています。つまり、組織やチームの特性が人間の行動に影響を与えているのです。したがって、規律が整った組織の人間は誠実な行動を取り、そうでない組織ではコンプライアンス問題やポカミスなどによる事故が起こりやすくなります。

“イノベーション”も人間の意識が変わることも重要ですが、組織全体が変わらなければイノベーションを起こしやすい環境を創り上げられないのではないかと考えています。やはり、組織を外に開き、外部とも連携しながら新しいネットワークを縦横に活用しながら、目標に向かって進んでいくことが重要だと思います。業績を良くしたい、事故をなくしたいといったパフォーマンスをコントロールするには、企業自体のパフォーマンスを変えていくことも重要です。そのためにはまず、パフォーマンスに影響する組織の文化や風土を診断し、明らかになった悪い点を改良し、社員=個人の訓練を行い、組織全体に広げ、徐々に組織文化を変革する試みを実践的に研究しています。現在、40年以上の実績がある、組織変革のための調査や研修を行う会社と連携して研究を進めています。

“安全管理”を生涯のテーマに

常任理事を務めている、“特定非営利活動法人 安全工学会”で昨年、“財団法人 保安力センター”が発足しました。これは、化学産業大手16社からの寄附をもとに、メンバー企業の安全診断を行う組織です。私が長年かけて開発した、“安全診断システム”や自己評価シートを用いて組織の弱点を明らかにし、組織内外のコミュニケーションを活発にする活動の奨励や、リーダーシップやフォロワーアップ、チームワークの研修を行い、化学会社の現場力の強化を行います。昭和40年代、化学会社でのコンビナート事故が多発しました。検査を強化しても事故が続くという時代があり、全員の手と目を使って設備のすべてを点検する“参加型の安全活動”を徹底したところ、昭和60年代には事故がほとんど起こらなくなりました。ところが、最近になって、40年以上無事故を続けてきた企業が重大な事故を起こすようになったことが、保安力センターを発足させるきっかけになりました。ここでは主に、自主規制の精神にのっとり、ノンテクニカルスキル、つまりコミュニケーションやモチベーションなど組織の文化を高めるための活動実施に取り組んでいます。

診断システムは、活力のある組織創りに必要なリクワイアメントを明確にし、そこから分析、提案・実践、検証というシステムデザインの考え方を踏襲してつくっています。システム自体マネジメントであり、診断システムは、人間に焦点を当てて人間関係を構築する、組織改善のためのマネジメントです。

フロンティアを切り拓く

長年、ヒューマンエラーという人間の負の側面に焦点を当てて研究してきましたが、SDMに入ってから、創造性という人間にしか持ち得ない部分にも焦点を当て、8年前から“創造性意志決定論”という創造性開発の授業を始めました。「チームでSDM的プロジェクトを計画し、提案してください」という課題を出してグループワークをしているのですが、毎回とても盛り上がり、すぐにでも実現可能な質の高いプロジェクトが発表されます。もう一つ、人間関係改善のための訓練やメンタルな問題の対処を含めた、“ヒューマンリレーション”という授業を担当しています。ここでは外部から講師を招き、組織内の人間関係性の改善のため、リーダーシップ、ハラスメント、コミュニケーションスキル、カウンセリングなど多彩な講義を行っています。リーダは先頭に立って行動する一方、チームの人間を支援し、フォローするという重要な役割を担っています。このリーダシップは、研修によって後発的に開発することが可能なのです。

設立から8年経ちますが、SDMは私の想像を超えて良くなっています。組織が発展するにはいくつか条件があり、内部が充実すること以上に外部との連携が重要です。この点においても全体としてうまく連携できるようになっています。5年後、10年後には国内ばかりではなく、世界的な名声を得るような研究科に成長しているのではないでしょうか。フォローアップ型の研究をする大学はいくつもありますが、この研究科は唯一、フロンティアを切り拓いていくための教育をするところです。学生には、フロンティアを切り拓くという意欲と能力を持って卒業し、社会で大いに活躍してほしいと思います。そうした卒業生が増えると、SDMは本当の意味で注目される研究科になることでしょう。