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SDM Voice|水門 善之 准教授(SDM教員)

SDM Voice|水門 善之 准教授(SDM教員)

野村證券でアナリスト、エコノミスト、データサイエンス部長として金融・経済分析の最前線を歩み、その後、慶應義塾大学大学院SDM研究科にて研究室を立ち上げた水門善之准教授。金融市場分析から社会経済システム分析へ。実務と学術の双方を経験してきた視点から、現在の研究、SDMへの思い、そして学生への期待について語っていただきました。

Profile

水門 善之(すいもん よしゆき)

2005年慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業、2007年東京大学大学院修士課程修了、2013年ミシガン大学経営大学院修了MBA、2021年東京大学大学院博士課程修了 博士(工学)。2007年野村證券株式会社入社、金融経済研究所シニアエコノミスト、データサイエンス部長を経て、2025年より現職。東京大学公共政策大学院非常勤講師、東京大学大学院工学系研究科共同研究員を歴任。

金融市場から、社会そのものを読み解く世界へ

学部・大学院時代は、情報理論、数理最適化、オペレーションズリサーチなどを学び、数理的アプローチを用いた研究に取り組んでいました。複雑なシステムを理論的・定量的に捉える研究を進める中で、次第に分析対象を社会経済全般へと広げていきたいと考えるようになりました。

そうした関心の中で興味を持ったのが、金融経済の世界です。金融市場は、人々の行動、企業活動、政策、国際情勢など、社会のさまざまな情報を反映しながら、常に変化し続けています。社会の動きを刻々と映し出す金融市場の研究に魅力を感じ、大学院修了後は、野村證券の金融経済研究所(旧野村総合研究所)に入りました。
入社後は、日本国債や金利デリバティブを分析するクオンツアナリストとしてキャリアをスタートしました。その後、会社派遣により米国ミシガン大学経営大学院に留学し、MBAを取得。帰国後は、アベノミクス下における日本経済担当エコノミストとして、マクロ経済分析を担当しました。さらに、社内に新設されたデータサイエンス部では部長として、ビッグデータや機械学習手法を活用した金融経済分析を統括してきました。こうした歩みの中で、リーマンショック、東日本大震災、欧州債務危機、コロナ禍など、歴史的な局面を金融市場の最前線で経験するうちに、「データだけでは社会は読み切れない」と強く感じるようになりました。

数値だけでなく、人々の行動や制度、産業構造、文化といった社会的背景を理解することの重要性を実感したのです。
と同時に、急速に発展する人工知能技術を経済分析へ応用するため、業務と並行して、東京大学大学院工学系研究科博士課程に進学し、博士(工学)を取得しました。研究活動では人工知能学会の学会賞を複数回受賞し、実務と学術の双方で培った経験が、現在の研究・教育活動の大きな基盤となっています。

こうした経験を重ねる中、金融・経済分析で培った知見を、金融市場だけでなく、より広い社会課題の解決にも役立てたい、さらには社会の仕組みそのものを解き明かしていきたい、といった思いが強くなっていきました。そのような思いから、実務の世界からアカデミアへと軸足を移しました。

データから社会経済システムを読み解く

2025年、慶應義塾大学大学院SDM研究科に着任し、現在は同研究科の経済イノベーションデザインラボ(以下、研究室)を運営しています。SDMは、人間、組織、社会、地域、環境なども含めて「システム」と捉える学際的な研究科です。既存の学問分野の枠を越えながら、社会そのものを対象に研究できる環境がここにはあると感じています。研究室では、社会経済システム分析をテーマに、人々や企業の行動をデータから読み解く研究を行っています。
活用するデータは非常に幅広く、SNS、位置情報、人工衛星データ、購買データ、ウェブトラフィック、政府統計など、多様な情報を組み合わせながら研究を進めています。例えば、SNS上の投稿から人々の感情や関心の変化を読み解いたり、位置情報データから人々の行動や地域経済の動きを推計したり、人工衛星データから産業活動の変化を把握したりしています。
従来は見えにくかった社会の動きも、今ではリアルタイムに近い形で可視化できる時代になりました。しかし、重要なのは単にデータを集めることではなく、そこから何を読み解くかだと考えています。

誤解を恐れずに言うと、私は、「データだけでは本質は見えない」と考えています。データはあくまで社会の一側面を切り取ったものに過ぎません。数値の背後には、人々の感情、価値観、制度、文化、歴史といった様々な文脈があります。

そのため研究室では、定量分析だけでなく、文献調査、現地調査、ヒアリング、ディスカッションなど、定性的なアプローチも重視しています。経済学、情報科学、統計学、心理学、経営学など、複数の学問領域を横断しながら、社会の仕組みを総合的に理解していく。それが、この研究分野の面白さであり、難しさでもあります。
SDMの魅力も、まさにそこにあります。社会課題は、単一の学問分野だけで解決できるものではありません。異なる専門性を持つ人たちと議論しながら、新しい視点やアプローチを生み出していける。この分野横断的な環境は、研究を進める上で非常に刺激的だと感じています。

「自分自身の問い」を持つこと

研究室では、「自分自身の問い」を持つことを大切にしてほしいと学生に伝えています。
例えば、「なぜ最近この商品が売れているのか」「なぜ人々の行動が変わったのか」「なぜこの地域だけ活気があるのか」といった、日常の小さな違和感こそが研究の出発点になります。社会を観察し、自分なりの問いを持つことが、研究の第一歩だと思っています。
研究室では、学生一人ひとりの興味や経験を尊重しながら、その問いを一緒に深めていくことを大切にしています。テーマも、産業、消費、地域、観光、SNS、ウェルビーイングなど非常に幅広く、日々の関心や問題意識から研究の芽が生まれていきます。

また、単に分析技術を学ぶだけではなく、社会をどう捉えるかという視点を身につけてほしいと思っています。データ分析はあくまで手段であり、その背後には必ず人間や社会があります。数値化できるものだけではなく、その背景にある価値観や感情、行動原理まで含めて考えることが重要です。
現在、当研究室では、産官学連携によるさまざまな研究プロジェクトを推進しています。大学院生に加え、研究員や特任教員など、多様なバックグラウンドを持つメンバーとともに、新しい知を生み出し、社会に貢献できる研究を育てていきたいと考えています。
教育と研究の両輪を回しながら、社会に新たな価値を生み出していく。実務と学術の双方を経験してきた立場だからこそ、その橋渡しができる研究・教育の場でありたいと思っています。