SDM Voice|白坂 成功教授(SDM教員)
三菱電機で宇宙開発事業に従事していた、白坂成功先生。今は、SDMの中核となる授業や研究室を担いつつ、人材育成にも注力されています。SDMで学ぶということは、どういう「ゴール」を目指すということなのか。白坂先生の思いを伺いました。
Profile
白坂 成功(しらさか せいこう)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
元・三菱電機株式会社。専門分野:システムズエンジニアリング、イノベーション、イノベーティブデザイン、コンセプト工学、モデルベース開発、宇宙システム工学、システムアシュアランス/機能安全、標準化等。宇宙開発から社会システム、デザイン方法論、安全・安心デザインまで、デザインするための研究・教育を実施。学生一人ひとりと丁寧に向き合う
もともと三菱電機に勤めていて、人工衛星を開発する仕事をしていました。エンジニアリング、つまり、工学で"もの"をつくり出すのが私の専門で、以前から大学に来ませんか、とお誘いいただいていました。しかし、つくることを教えるのに、つくる現場を離れてしまっては、リアリティがなくなってしまう、と危惧していて当初はお受けしませんでした。しかし、徐々に時代は変わり、大学でも小型の人工衛星をつくれるようになりました。そこで、2009年度までは、非常勤の教員として慶應義塾大学でシステムズエンジニアリングを教えておりましたが、2010年度からはSDMの常勤の准教授を務めることになりました。大学に来てからも「ものづくりの現場」の近くにいることを心がけており、大学に来てから私が関与した人工衛星が、すでに3機打ちあがっています。
大学に来ることにしたのは、研究はもとより、人材育成にも興味があったからです。前職でも会社内の人材育成をおこなっておりましたが、人が育つことの面白さはひとしおです。それに深くたずさわれるなら、自分の人生キャリアを変える価値があると思いました。
もちろん、人を育てるのは、責任重大でとても大変です。一年間で20人くらいの学生を指導するのですが、全員が異なるテーマの研究をしているので、一対一で向き合う必要があります。例えば、二週間に一度、日曜日の朝9時から夜の10時まで、一時間おきに学生が入れ替わり立ち代わりやってきて、一人ひとりに、研究指導をしています。ほとんどの学生が社会人なので、どうしても休みの日にすることになります。自分が知らないことをテーマにしている場合もあるので、学生から教わることも多く、毎日が勉強です。
方法論や手法論を学ぶ
私の研究室は、システムデザインメソドロジーラボといいます。メソドロジーとは、「方法論」と訳されますが、これまで暗黙的におこなわれている知見をひも解いて、他の人も活用可能な形式に落とし込んだり、ある分野で適用されているアプローチの本質を見出して、それを他の分野に応用できる形にしていったりしています。ですので、学生の研究分野やテーマはさまざまですが、最終的には方法論や手法などをつくりあげることを目指している学生が集まっています。
私が担当している授業を2つご紹介しましょう。一つ目は「SDM序論」です。入学してすぐに受ける必修科目の一つになっています。物事をシステム的に捉え、システムとして構築するための「考え方」を学ぶことを目的としています。例えば、「カレーライスのつくり方」をシステム的に考え、構築してみることからスタートし、その基本の考え方やプロセスを応用して「ビジネス」や「組織」「街」などをつくるにはどうしたらいいのか、ということに繰り返しトライする授業です。ここで学ぶ、ものづくりの方法論が、実は研究につながるSDMの基本なので、頭ではなく体感として、理解してもらうことを目指しています。もう一つは、「イノベーティブワークショップデザイン論」です。他人の思考の流れをデザインすることで、今はまだない新しいものを生み出していく、というアプローチを学んでもらっています。ワークショップをデザインするための能力を身につけることを目指しています。
今の自分が想像していない自分。次元の異なる「ゴール」を目指してほしい。
SDMには、非常に多様な人材がいます。これだけさまざまなバックグラウンドの人が集まると、言語も違うし、考え方も違う。そういう人たちが一緒に何かを生み出そうとすると、齟齬が生じて、うまくいかないことが多々あります。でも、SDMで共通の言語やアプローチを学ぶと、そのズレが解消されて、共同作業やディスカッションがしやすい環境が整います。この仕組みをさらに磨きあげて応用すれば、多様性を活かして社会を変えていくような人材育成につながると考えています。
今後は、既存の研究科では学べない、SDMだからこそ学べることをさらに深め、充実させていきたいです。SDMの良さは、学生のみなさんが「自分では思ってもみなかったような自分になることができる」ことだと思います。「この範囲のことを学べればいい」という人は、あまりSDM向きじゃないかもしれません。「あんなことも、こんなことも学べる」という、何事にもポジティブでオープンマインドに受け入れられる人や、「あれもやりたい、これもやりたい」という、自分からチャンスを掴みに行くような人にあっています。
SDMを一言で表現すると、「今の自分が想像していない自分になるための"スキルセット"と"マインドセット"を見につける場」だと思います。専門職大学院は、特定の知識を習得する、というのが「ゴール」だと思いますが、ここでは違います。SDMでは「思考のOSを入れ替える」という言い方をしますが、思考そのものを一変するというようなことを目指しています。そうすると、最終的には、最初に自分が考えていた「ゴール」ではない「ゴール」に辿りつく。入学時には、「修了時にはこんな自分になっているだろう」とか「こんな自分になっていたい」という「ゴール」があります。この「ゴール」に対して直線的に向かうのではなく、SDMの教育を通して成長を続けることで、修了時には、自分が入学時に思っていた自分を大きく超えた「自分」になっていることに気がつきます。その成長の角度をいかに急にするか、そのための"スキルセット"と"マインドセット"の機会が、ここにはたくさんあります。授業はもちろんのこと、同期生や先生とのコミュニケーションを通じて、自分ではない自分を目指してほしいと思っています。