修了生


SDMとは無であり自分自身である

山本高士(2010年3月修了) 勤務先:東京電力株式会社(群馬支店設備部土木技術グループ)

入社以来、主に水力発電システムの新設に関わってきました。主な業務としては、高さ120mのコンクリートダムや長さ100m以上に渡る護岸構造物などの設計・工事監理・品質検査を行ってきました。発電所竣工後は、総合研修センターという職場へ異動し、主に若手技術者を対象とした育成プログラムの新規開発と運用を担当しました。人材育成を企業価値増大に直接つなげる新たな取り組みとして、その成果を学会へ取り纏めて投稿するなど、社会的価値の共有化・財産化にも積極的に努めました。

“ビジネスマン” としての自らのレベル感

人間の成長とは、人生の中で最も費やす時間が長い“仕事”を通じてこそ成し遂げられるものだと留学前は考えていました。会社で約7年間働く中で、 自らの専門である土木技術者としての研鑽は大規模ダム建設プロジェクトの経験を通じ、ある程度達成できたという自負もありました。一方で“ビジネスマン” としての自らのレベル感については、社外や世界標準の中に自分の身を置いたとき、いったいどの程度なのだろうという疑問も同時に抱いていました。いわゆ る、“茹で蛙”現象に浸っているのではないか。この強い危機感が私をSDMに導いたと、卒業後の今振り返るとそう感じています。

“Edgeを感じたか、超えたか”を必ず自分自身に問い掛けるように心がけています。これは、直面する業務に本気で取り組み、自らの現状の能力・スキルをぶつけているか、を確認する儀式でもあり、また一方では自らその業務へコミットし責任を認識して、可能な限り自らを“いい意味で”追い込むことを自覚することでもあります。こうして自ら積極的にリスクを業務に取り込むことがさらなる成長を促し、人間としての器の形成にも資するものと私は考えています。すなわち、どんな身近な仕事にもEdgeの種は落ちている、というのが私の信条とも言い換えられます。

SDMの学友や先生方からは、“会社が今抱えているシガラミ・経緯を一旦リセットして白紙の状態から物事を見る”という視点の重要性を学ぶことができました。事情を知らないからこそ、斬新な発想や全くゼロの仕組みを本気で議論でき、そうした他人の考えについてその意図や意義を深く振り返るように常に心がけました。こうした2年間の他流試合(修行?)のおかげで、エネルギー業界や電力会社の置かれた経営環境について、将来展望を踏まえつつ一定の方向性を自ら“デザイン”して外部へ発信することにつながったと感じています。

電力会社とは、単に利益を一概に追求するのみならず地域社会との共生に真摯かつ愚直に向き合うことのできる究極の“社会的企業”でもあると思います。電力需要はその基盤とする地域社会の経済事情やお客さまの家計状況の影響を受けやすい構造を有しています。その原点としての良さ・DNAは忘れず、一方でさらなる収益性の向上やこれまでの電力事業で培った人材・技術の徹底活用が課題であると思います。スマートグリッドを巡る国際動向や原子力発電の海外受注競争に代表されるように、電力事業を自ら変革しそのシステムを成果として海外へ積極的に売り込む行動力がこれからの電力会社に求められる社員姿の一つでもあると自覚しています。国内需要に安住することなく、常に視界は外へ向いて海外を含めた技術・制度・システムの動きに敏感であり続けたいと思います。

“地域社会との共生”という電力会社の本質的な存在意義を問い掛けた場合、やはり地域社会の活性化に如何に貢献するか、が重要な視点だと思います。地域社会にお住いのお客さま・企業の方々の持続可能な成長を支援するため、我々電力会社の社員として可能な限りその経営資源を活用すべきだと思います。ただし、ボランティアではなくビジネスパートナーとして相互の互恵関係を構築して、明確な業務分担も意識すべきだと感じています。地域経済の自主・自律のために、できること、できないこと、やってはいけないことを区別して共に果実を分かち合う仕掛けと仕組みを意識すべきだと思います。一つの切り口として、私は農業システムとエネルギーシステムの橋渡しに着目して修士研究を実践しました。その一例として、栽培・流通時の農業廃棄物や畜産系糞尿の混合発酵によるメタンガス回収・利用のスキームは経済性に未だ難点はありますが、将来的な技術革新によって採算ベースに乗ることも期待されています。また、化石燃料に依存する現状の農業システムの変革にも副次的に寄与する可能性も秘めています。したがって、こうした新たなビジネスプランを真っ白なキャンパスにデザインとして描き、その実現に向けて業界を超えた連携を自らプロジェクトリーダーとして手掛けていくことが私の今の夢、とも言えます。

自己変革への気付きと実践

この2年間を一言でいうと、自己変革への気付きとその実践に尽きると思います。仕事以外の場でも人間は大きく変わることができる、成長することができるということを日々実感する2年間でした。一番の成果は、社外の同世代の企業戦士たちと自分が十分に闘うことができる、もしくはともに同じ土俵で議論でき目標に向かってチームを組むことができることがわかったことでした。これは私に大きな自信とさらなる自己成長への向上欲を目覚めさせてくれました。SDMには、豊富で深い経験に裏打ちされたITや経営などの専門性を身につけた人材が多く揃っており、またその人間性も豊かであることから、まさに“人種のルツボ”といえます。この場は、言い換えれば自分の意見やアイディアを実現することを念頭に置くと、大きな修羅場にもなります。価値観が異なり、専門性も多様なグループの中で、どう個々の資質を求められる成果に結びつけていくか。会社では味わえないダイナミックな組織マネジメントの実践の場でもありました。この機会を通じて、特に“木を見て森を見る”ために欠かせない能力、すなわち多種多様な要素を如何に的確かつ効率的に収集し真実を見極めるか、といった情報マネジメント能力が飛躍的に伸びたと実感しています。もちろん、それに付随するコミュニケーション能力や組織マネジメント能力も高まったと感じています。他にも、システムデザインのために必要な最新のシステム工学やそれに関連する手法を学んだり、その前提となるシステム思考などを身につけたりしたことも、現在の仕事を進める上で大きく役立っています。

「なぜそうなるの?」「自らの感性や感覚を大事にしなさい」

研究の進め方や自らの仮説の裏付けとなる原理原則については、佐々木正一教授のご指導を主に頂きました。佐々木先生は性格も温厚で懐が大きな方です。また、プリウスなどの開発現場を通じて身につけた一流のエンジニアでもあり、そのトヨタ的な思考法則は私の研究に理論という一面を付加してくださいました。先生の口癖は、トヨタマンらしく「なぜそうなるの?、なぜそういえるのか?」というお言葉です。私もゼミの場で通算100回は指摘されたように思います。このほか、先生にはいつでも研究や就職について学生の相談に気軽に乗って頂ける安心感があり、学生とともに問題を悩み解決策を一緒に考えてくれる、 そんな家族、父親のような先生だと思います。

林美香子先生には、入学前には素人であった農業分野の多角的な視野を授けて頂きました。林先生が大事にする価値観は“現地現物主義”のもと、自らの感性や感覚を大事にしなさい、という教えだったと今振り返ると感じています。先生が育った北海道という地の先進的な取り組みや農家の考えを土と野菜と家畜の匂いが漂う現場で、私も含めアグリゼミメンバーは農業に対する表層的な気付きや発見だけではなく、人生という荒波を生き抜くための知恵やたくましさを学んだように感じています。

私はこのお二人の先生方を含め、前野先生などSDMの誇る多様で高度な専門性を持った先生方の生きるノウハウを授けてもらったように感じており、感謝しています。

“半学半教”と“独立自尊”を具現化した現代版私塾

哲学的にいうと、SDMとは無であり自分自身であるといえます。学んだ理論を活かすも殺すも、自分の行動力と意識にかかっています。だからこそ、無であることを理解した上でSDMを社会の中で自分のすべてをかけて体現することに価値があります。 あるいは、SDMとは福澤諭吉先生の教えである“半学半教”と“独立自尊”を具現化した現代版私塾といっても過言ではありません。福澤先生がこの今の社会で創りたかった学校の姿が、SDMとは福澤先生にはあると思います。

理論としてSDMで新たに学ぶことは、一言でいうと“仕掛けと仕組みの融合”のあり方といえます。今はこの理論は欧米流の受け入りなので、明治維新 のように日本人の手で実社会でより使いやすい実学的な理論に再構築しなければなりません。これは、在校生および卒業生にも、そして先生にも課せられた課題であると認識しています。

場としてのSDMの意味は人生の修羅場であり、自身のリセットであるかもしれません。また、システムデザイン(SD)になぜ“マネジメント(M)” が付いているか。そこにSDMへ込められた故吉田先生や狼研究科長の強い思い、現在の社会に対する強烈な問題意識を感じ取ることができます。

水力エネルギーを最大限活用する次世代社会への実現に向けて

4月より群馬という新天地で水力発電設備の総括業務を行うことになりました。まさにSDMが理念とする“木を見て森も見ないといけない”仕事です。 群馬には41箇所の水力発電所がありますが、低炭素化社会と環境への調和に向けてますますその“水のパワー”への社会の期待が高まりつつあります。水力エネルギーを最大限活用する次世代社会への実現に向けて、SDMで培った“鳥の目虫の目”的な視野と情報戦略に基づいた先見性を持って、常に社会の半歩先の対応を心がけていきたいと考えています。