声
教員
堅い絆を通じた新たなコミュニティー
手嶋 龍一 教授
元・NHKワシントン支局長。専門分野:巨大・複雑システムをめぐるインテリジェンスとクライシスマネジメント。著書に「ウルトラ・ダラー」「外交敗戦」(新潮社)、「インテリジェンス 武器なき戦争」(幻冬舎、共著)などがある。
システムズ・アプローチで現代社会の問題に分け入る
SDMが取り組んでいる社会システムの研究とは、現代社会の様々な営みに光を当て、分け入る試みです。ゼミに参加している皆さんは、環境、ツーリズム、都市・交通デザイン、農業、移民政策、外交・安全保障、金融システム、さらには医療システムとじつに様々な分野の問題を取り上げています。
こうした研究テーマだけを見ると、なんと脈略のないと感じられるかもしれません。しかし、研究の手法や問題へのアプローチには共通点があります。どのような社会システムであれ、ステークホルダーと呼ばれる組織や人間が存在します。まず、それぞれの対象に肉薄して徹底した調査を行い、現状を適確に分析し、新たな社会システムをデザインしてみます。そのうえで、自ら設計したデザインが果たして有効なものかどうかを小規模社会実験や有識者へのレビューなどを通じて検証します。
価値観の相克:「正義とは何か」
ここでわれわれは困難な問題に直面します。自然科学と異なり、実験には必ずしも再現性がなく、有識者の評価も一致するとは限りません。巨大で複雑な組織では、様々なステークホルダーの利害が入り組み、時に対立することが少なくないからです。
巨匠スタンリー・キューブリックは『博士の異常な愛情』で価値観の相克を描いています。この作品は20世紀に人類が垣間見た核戦争の危機『キューバ危機』をモチーフとしています。この映画では、科学者は技術の進歩をひたすら追求し、軍人は戦術的勝利を目指し、政治家は政治的決着を求めて奔走します。それぞれの立場や役割が異なれば「目的」も「正義」も十人十色なのです。
このような現代社会の複雑な営みを「システムズ」という視点から俯瞰し、問題の解決を模索しています。あらゆる社会システムに通じる共通項を見つけ出す。各要素の関係性やつながりに注目し、問題を大きな構造して捉える。研究は緒に就いたばかりですが、これが社会システム研究の核心です。
「半学半教」の精神、そして現場での調査を出発点に
慶應義塾には「半学半教」という言葉があります。教員も学生も互いに、学びそして教え合うという意味です。各自が得意とする分野を教え合うことで「半学半教」を実践しています。そこから導き出される社会システムの「共通項」が、ゼミの仲間たちの共有のものになりつつあります。
それらの研究の着地点は「修士論文」となります。「修士論文」には問題意識から抽出される「問い」があり、その解決のための「仮説」があります。そして「分析」と「検証」を経て、最終的にあるべき「社会システム」が実像を結ぶと考えています。
「調査なくして発言権なし」。これは若き日の毛沢東の言葉ですが、ジャーナリストとしての経験からも、けだし至言であると思います。ゼミでは「まず現場へ足を運ぶ」ことを何よりも大切にしています。学問研究も、現場に深く分け入り、当事者に直接疑問をぶつけ、取材してみることが、問題発見の第一歩です。SDMは実学としての研究を行う場所ですから、このことは大切だと考えています。
堅い絆を通じた新たなコミュニティー
多大な時間を費やして研究行為に取り組むのですから、自身にとって真に興味のあるテーマを選び、将来に役立つ研究を勧めています。研究とは自分自身との闘いです。志を持続して研究に取り組むためにも、私の専門分野に拠りかかることなく、自分が究めてみたいテーマに挑もうと呼びかけています。
研究に際しては、お互いに助け合える仲間がいます。互いに緊張感を持ち、楽しく研究に取り組める環境がここにはあります。毎回のゼミでは、楽しい雰囲気の中での活発な議論が繰り広げられています。このような営みから各自の研究が洗練され、研ぎ澄まされていくのです。
SDMの学生はもちろん、他にも社会システムに興味のある方がいましたら、是非とも僕の研究室のドアをノックしてください。そこには人生の道筋を見つけるヒントが沢山ありますよ。
