声
修了生
SDMは、既設の概念を飛び越えた
スカイハイな思考と、それを具現化するための
資源を提供してくれます
榮谷 昭宏 (2010年3月修了)
学習院大学理学部物理学科卒業
学習院大学大学院自然科学研究科博士前期課程物理学専攻修了
現職:NTTコムウェア株式会社(企業派遣)
日本電信電話株式会社(NTT)入社後、同社情報システム本部で顧客管理・通話料計算などのシステム開発プロジェクトに参画。その後、開発プロジェクトの生産性・品質向上を図るための技術評価や標準化活動、そしてプロジェクトへのコンサルティングなどに従事。
SDMを選んだ理由
現在、情報システム開発の仕事に従事しておりますが、就職してから15年ほど、この業界に大きな進歩を感じられない状況が続いています。開発言語や開発ツールという、個々の要素技術に進歩はあっても、開発全体を大きく効率化し、品質や生産性を向上するような進歩はなく、相変わらず混沌とした状況に陥り、その現場は15年前と比較しても大差の無いものとなっています。しかし、一方で社会的には情報システムへの依存度が高まり、社会基盤としてなくてはならないものとして、情報システムに求められるそのミッションクリティカル性はさらに高度化する傾向にあります。
社会的なニーズと開発プロジェクト内の日常業務に存在するギャップ、つまり社会的には高い品質・生産性を実現する緻密さと整然さが求められているにも係わらず、情報システム開発の現場では整然とせずに混沌とした中で作業が進められているというギャップに対して、このままで将来本当に社会基盤を支えるに耐えうる情報システムを構築・維持できていくのか非常に危機感を感じておりました。
そのようなときにSDMのサイトで、「既存の大規模プロジェクトのやり方はもう限界にきている。これからの大規模で複雑なシステムを構築する方法を考えていこう」という趣旨の文言をみて、是非SDMで研究してみたいと考えました。
実務経験をベースにした現実的な講義
自分にとって、とても内容の濃い2年間であり、日々がとても印象深いものでした。そういった中で、まず入学後の1週間は各講義ともに非常にインパクトが強いものでした。インテリジェンス、会計、プロジェクトマネジメント、システム管理技術、SDM特別講義、どれをとっても市販の本などで説明される単なる理想論とは異なり、全て実務経験をベースにした現実的な内容の講義であり、社会人にとっても十分に有用な内容でした。その質の高さはこれからの2年間を非常に期待させるものでした。その他、Rashmi Jain先生 (Stevens Institute of Technology, US) の集中講義、ALPSでのスタンフォード(故)石井先生、MITのOlivier L. de Weck先生の講義と演習は、やはり日本的な思考プロセスとは異なりロジカルで整理され、とてもクリアな講義や演習(グループワーク)でした。
また、講義や研究以外では、SDMの1期生であったということもあり、研究科内の仕組みの整備に関わることができたことは非常に有益な経験でした。今後何年にも亘って続く研究科の初めの立ち上げに関わったことに責任の重さを感じています。日々の仕事でも一番初めの立ち上げ段階が悪いと後々まで尾を引くものです。そのようなことにならず、良い歴史を刻んでゆく第1歩となっていることを願っています。慶應の150周年という節目に学生として在籍し、新しい研究科の立ち上げに微力ながら携われたことはとても良い経験だったと考えています。
未だに解決しない大きな問題に取り組むには、全く異なる視点で真剣に学び・考えることが必要
手嶋研究室では主にお二人の先生からご指導を頂きました。お一人は作家またジャーナリストでもありメディア等でも活躍されている手嶋龍一教授です。その視点の高さや広さ、それに伴う人脈の広さや構想力は大変勉強になりました。今までと別の観点で世の中をみることができるようになったと感じております。またひとつひとつのコメントも機転が利いたものばかりで、コミュニケーション力ひとつをとっても非常に多くのことを学ぶことができました。
もうお一人は霞ヶ関出身の保井俊之教授です。非常に頭脳明晰であり、鋭いご指導をして頂きました。先生の頭の整理方法や研究の進め方は自分の実務にも参考になることが多かったと考えています。“霞ヶ関のスーパー仕事術”、先生から教えて頂いたアイディアのまとめ方は今でも実践させて頂いております。
また学生も、医薬系、国防関係、映像関係など、非常にバラエティーに富んでいて、各自の研究テーマそれぞれが非常に興味深いものでした。研究テーマが様々なものではありましたが、SDMで学んだ思考ツールを皆が共有していましたので、それぞれの研究アプローチや着眼点を十分に理解することができました。そして、同時にそのアプローチ方法を自分の研究の参考にすることも出来ました。
もし、テーマとする“情報システム開発プロジェクト”を工学的な視点のみで単純に研究を進めていくならば、それは勤務先の仕事に邁進するだけで十分な成果を得られるのかもしれません。しかし、未だに解決しない大きな問題に取り組むには、全く異なる視点で真剣に学び・考えることが必要であると思います。長年解くことができない問題ならばなお更、新しい視点そして新しい発想で捉えることができなければ進歩は望めないでしょう。“情報システム開発プロジェクト”とは、技術システム的な観点だけでなく見方によっては多くの人とのコミュニケーションで成り立つひとつの社会システムとしても扱うことができるのではないでしょうか。そのような考え方で研究に取り組むと、自分のような技術的な背景を持った学生でも、手嶋研究室で政治・経済などを含む社会システムについて学ぶことは大変有意義な時間だったと考えています。
そしてまた、このような学生にも研究室の門戸を開いて下さった両教授に懐の大きさに深く感謝致します。
混沌とした情報システム開発の現場が、整然と流れる世界を創り出してみたい
はじめに、SDMの2年間で得たことを“人”、“物”、“情報”という観点で述べてみたいと思います。
人という面では多種多様な学生、先生方との出会いであると思います。国籍や仕事をしている業界も区々、年齢も区々で新卒学生もいれば既に仕事を引退されてきた方もいます。そのような自分の世界とは全く異なる背景をもった先生・学生と時間を共有したことは、少なからず自分自身に影響を及ぼし、今現在でもそれによって自分自身の変化が促進されているように感じています。
また、物という面では多種多様な思考ツールの習得があります。SDMでは本当に様々な手法を学びます。それはエンジニアリング的な分析手法だけでなく、発想法やコミュニケーション技法なども含みます。しかもこれらは下手な企業研修などよりも実践的で翌日から日常業務に活かしたものもありました。
そして情報という面についてですが、SDMでは工学的な面だけでなく最新の政治経済状況までもシステマティックに捉えた講義が準備されており、既存の学問領域など全く関係なく果敢に学際領域に飛び込んでいくことが出来ました。そこから得られる視点は非常に有効なものであり、例えば極論を言うならば法律を制定するときも自動車を開発するときも、それに対する要求条件を整理し設計・実装していくという思考ステップは全く同じであること、そして、その作業ステップを踏んでいく中で注意すべきこともほぼ同じであるということを幅広い分野の講義から俯瞰的に把握することができ、そこに潜む普遍的なルールを見出せたように考えています。また抱えている問題も類似していて、10年近く動いている企業の情報システムのソースコードと同様に国際法も所謂スパゲッティー状態になっており各条項が複雑に絡み合い、その維持・修正作業は非常に困難なものになっているという事象もあります。
このように現代社会では、非常に大規模で複雑化してきている様々な“仕組み”や“システム”、“スキーム”をそれぞれが工夫を凝らし、如何に上手くコントロールしてそれらを開発または運用していくかという課題に取り組んでいます。SDMで学ぶことで、様々なジャンルで考えられた解決策・知恵を知ることができました。
そして、そのような情報を講義から得た後、SDMで習得した思考ツールという共通言語を用い、多様な背景を持った先生・学生と議論し昇華することで、自分がテーマとした情報システム開発プロジェクトが抱える問題を解くヒントを得ることができたと考えています。
最後に、上記を踏まえて今後どのように活かしていきたいか述べたいと思います。これまで述べたように、様々な観点からヒントを得て色々なことを考えました。最終的に自分の修士論文では、開発プロジェクト内でやり取りされる設計情報をどのようにすれば円滑に流通することが出来るのかという発想をベースにして、プロジェクトを設計するための手法化・概念化を試みました。それは情報システム開発の業界では今までにない全く新しい概念なのですが、今後は実務の中でその概念を展開しつつ、学会等でもその内容を発表していきたいと考えています。そして10年後に、現在のような混沌とした情報システム開発の現場がもっと洗練され、重要な精密機器を作っているかのような整然とした流れの中で作業が進んでいる世界を創り出してみたいと考えています。
これが世の中の進歩へ貢献する自分なりのやり方なのではないかと考えています。SDMは既設の概念を飛び越えたスカイハイな思考と、それを具現化するための資源(人脈、思考ツールなど)を提供してくれるところです。今後も独立自尊の気概を持ち続け、仕事に励んでいくつもりです。
