教員

狼 嘉彰 (おおかみ よしあき)SDM研究所顧問/講師

前研究科委員長・教授、東京工業大学名誉教授、元宇宙開発事業団技術研究本部研究総監、SDM研究所顧問、講師。 専門分野:大規模宇宙システムのデザインとマネジメント、戦略的システムズエンジニアリング。

研究拠点におけるシステムデザインの
先駆者であるSDMは、今後も複合的に
発展していきます

世界で最初に“システムデザイン”に着目した慶應義塾

世界で最初に“システムデザイン”という言葉を使ったのは慶應義塾大学です。故吉田和夫理工学部教授の「日本にはシステム的な考え方と、デザインする能力の2つが欠けている」という指摘から始まり、1996年に理工学部に“システムデザイン工学科”を立ち上げました。吉田教授は、機械工業や生産技術において日本は非常に優れているが、元を正すと物まねから始まっていて、自らデザインする能力がないことに危機感を持たれ、このままでは必ず第三国に追い越されることを当時すでに予見されていました。私も宇宙開発の現場で同じことを感じており、理工学部“システムデザイン工学科”の大学院ができる2000年に招聘されて以来、一貫してシステムデザインの分野に関わってきました。

2003年、理工学研究科から申請をした「知能化から生命化へのシステムデザイン」のプログラムが、文部科学省の“21世紀COEプログラム”の研究拠点に採択され、助成金を受けた5年間に、慶應義塾大学におけるシステムズエンジニアリングと、マネジメントの基礎ができあがりました。そして、2008年4月に開設されたシステムデザイン・マネジメント(SDM)研究科に引き継がれていきました。

“グランドデザイン”のできる社会を目指す

日本では、30人くらいの規模で物事を展開する場合、おそらく世界で並ぶもののないほどの効率とパフォーマンス力を発揮します。しかし、それ以上になると個人の力でマネジメントできなくなり、機能しなくなってしまいます。これは、システムという概念を日本人が好まないからです。日本では物事を始める時、ミッションを切り分け、棲み分けをしてしまいますが、システムは全体を見なければいけません。

日本では明治以降、教育システムはドイツ、陸軍はプロシア、海軍はイギリスというように、まず一番優れた国の仕組みを調査して真似をしました。当時はそれでも良かったのですが、そのやり方が続いているため、自ら何か新しい枠組みを作ろうとすると、それが良いものであっても必ず反対が入ります。関東大震災の後の後藤新平のように、東京大改造計画も“大風呂敷”と言われて結局つぶされてしまいました。日本のこのデザイン嫌いを乗り越えなければならないというのが、SDMの最大のミッションです。

マイナス面も含め、全体の最適化を考える

「部分を最適化すると全体が崩れてしまう」という有名な提言がありますが、システムの構築には、全体を最適化することが第一です。それから、科学技術発達のためにシーズ研究・思考は絶対に必要ですが、ビジネス展開するには逆にニーズが大切になってきます。日本では投資するカスタマーと、それを使うユーザーが混同されますが、まったく別のものです。誰がカスタマーで誰がユーザーかを見分けなければいけません。

さらに、ステイクホルダーを明らかにすること。政府諮問機関からの報告書を見ると、プラスのステイクホルダーのことしか書いてありません。しかし、必ずマイナスがあります。例えば、高速道路を引けば、旧道に並んでいるレストランはつぶれてしまいます。そうしたマイナスのステイクホルダーズをどうするか、運用から廃棄までを考える、これが“トータルシステムデザイン”です。

世界に誇れる日本の倫理観

SDMとしては今後、国際連携をますます強化していきます。そして、もう少しヒューマン的なファクターを加えていきたいと考えています。日本の一番優れたところは倫理観だと言われています。実際に物に触っている人の倫理観は、世界のどこにもないくらいに高い。倫理観は品質や納期、信頼性、ディペンダビリティ、そういうものに直接深く関係します。例えば、中国の方が日本の製品を買いに来日する理由もそこにあるわけです。日本では誰もが良いプロダクトを作ろうと誠心誠意働きますが、これは諸外国ではあまりないことです。より良い全体システム作りのために、優れた倫理観はいっそう伸ばし、不足している部分は一つの文化として、積極的に取り入れていく必要があると思います。

あらゆる分野を融合し発展させる

私の研究室では非常に幅が広く、戦略レベルのグローバルなものから、宇宙観光を目指すサブオービタルフライト(注)まで、さらには、人間の身体の動きを機械工学的に解明することもやっていますが、基になっているのは機械工学と制御工学です。それらを融合して、ヒューマンファクターや、社会システムに応用することを目指しています。

ただ、ヒューマンファクターとなりますと、私のこれまでの研究だけではカバーできない部分もあり、高野研一教授や前野隆司教授、中野冠教授といった方々にご協力いただきながら、今後もさらに発展させていきたいと考えています。

(注)サブオービタル フライトとは
準軌道(サブオービタル)宇宙旅行のこと。準軌道(サブオービタル)宇宙旅行は「弾道飛行」とも呼ばれており、宇宙往還機(RLV:Reusable Launch Vehicle)によって、地上から弾丸が弧を描いて飛ぶように高度100kmの大気圏外の宇宙に到達し、地上に帰ってくるものです。
 宇宙滞在時間は数分から十数分、と滞在時間は短いですが、料金は地球周回軌道(オービタル)宇宙旅行の1%以下の金額で宇宙を体験できるといわれています。特別な訓練も必要ありません。