教員

「考えることを考える」能力と習慣を得る

ヒジノ ケン・ビクター・レオナード 准教授

Financial Times東京特派員、英国ケンブリッジ大学東洋学部博士課程修了、日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学客員研究員を経て2011年4月より現職。専門分野:比較政治制度論、政党組織論、地方政治・自治の比較システム論。

地方政治・自治の比較システム論

英国ファイナンシャルタイムズの東京特派員であったとき、地方の過疎化した村落の取材をする機会がありました。そこにはマックス・ウェーバー好きの長老の村長がいて、彼をインタビューして以来、地方自治という概念と実態に関心を持ち続けています。その後、英国ケンブリッジ大学の東洋学部で日本の分権改革と地方自治システムを英国とスウェーデンの制度と比較して研究をしてまいりました。目下の研究では地方政治における政党の役割、政党組織の地方―中央関係、また地域政党の台頭などの政治現象など、日本を軸として比較の視座から進めています。

これら研究の最終目的は、地方における健全な政党間競争を築くための知見を得ることです。世界の民主制国家で国政政治と既存政党に対する不信が充満しており、その反動で地方分権と住民自治に対する「甘い」期待があります。ただし、地方レベルの民主制においても説明責任、決定力、代表性、正統制を確保するには健全でオープンな政党間競争が必須です。地域での政党競争を高める施策として、例えば母国のスウェーデンに存在する「地方版・政党助成金」があります。このような制度を日本に導入できないか、システム・デザインを考察しながら、政治家に訴えています。

自由に活動できる研究の場

SDMの学際的な、あらゆる分野で活躍する社会人・学生受講者が程よく混じっている雰囲気に惹かれました。私の学んだWolfson Collegeにもあらゆる業種、専門、年齢、国籍の研究者がいました。そこには毎晩、学生とカレッジのフェローが夕食を共にしながら、いろいろなことを語りあう愉快な場がありました。日吉でも同じようなcollegialな雰囲気で受講生と教員が交流できる場所があればと願っています。

またSDMのアプローチである、あらゆる現象を「システム」としてとらえ、それら制度構造が生み出す「問題」を解消するために向けた「デザイン」とそれを維持する「マネージメント」―言い換えれば、研究と実践―の文武両道を目指しているところに感銘を受けました。

政治学者は学会以外の世界でその研究成果を発表していくことにアレルギーを持つ方が少なからずいると感じています。しかし研究を深化させることとその知見を社会全体に伝えることは同じぐらい重要です。有権者や政界に対しオプションを提示し、現行制度は必ずしも唯一で最も有効なものでないと伝えていきたい私には、SDMのような自由に活動できる研究の場をありがたいと思います。

他国と比較した日本政治の特徴

春学期では他の教授の授業でいくつか講義を担当する予定です。谷口先生の「国際政治経済システム論」において国際関係における地方政府の影響など「入れ子状システム」の解説をして、手嶋先生の「インテリジェンス論」の授業で英国インテリジェンスの名著を解説する予定です。日本語での講義となります。

秋には「比較政治制度システム論」の授業を英語で教える予定です。政治現象を文化や政治家のパーソナリティーや政局ではなく、複合的システムの帰結として理解したい人、他国と比較して日本政治の特徴と共通点を理解したい人にお勧めする授業です。

「考えることを考える」能力と習慣を得る

大学院では「考えることを考える」能力と習慣を得ることが大切なのではないでしょうか。学ぶことは、うんちくやデータを集めることでなく、概念の構成、比較の方法、ロジックの精密さ、表現の方法、相手に伝える力を蓄えることだと思います。特に「比較」というアプローチは自然科学でも社会科学でもすべての知の定礎ですから、それを体得できるよう願っています。

具体的な事象やデータのディテールに逃げないで、それらデータが支えている主張の妥当性、理論的一貫性、社会全体との関連性を幅広く考えることをすすめます。お互いに「月を指せば指を認む」錯覚に落ちず、「一を聞いて十を知る」知性を磨きましょう。