声
教員
システム全体を見て構想する能力
春山 真一郎 教授
元・慶應義塾大学理工学部訪問教授。専門分野:ユビキタス社会におけるトータルなハード・ソフト・通信システムのデザイン。著書に「可視光通信の世界」(工業調査会、第2章)等。現在、大学発ベンチャー 「(株)中川研究所」副会長。
システム全体を見て構想する能力
近年、工学系、社会科学系など、あらゆる分野でシステム全体を見て構想する能力が大切になってきています。工学系に関して言うと、新しい技術を発明しても、それがどのように社会で使われるかを検討しなければ役に立たないことが多くなってきています。システムデザイン・マネジメント研究科では、個々の技術等を研究するだけではなく、社会やユーザーの要求、問題点を見極めて、全体としてどうなのか、社会にどのように役に立つのかといったことを明確にし、その上で詳細検討に入っていくということを重視しながら、教育、研究を行っています。
システムとしての新しいコミュニケーションと新しいアプリケーション
私は、90年代にアメリカで新しいタイプの通信用集積回路の設計開発を行ったり、2000年代には、日本で新しい通信方式の研究を行ったりしてきましたが、新しいシステムを提案したり開発したりしても、ユーザーに必要だと感じてもらわなければ使ってもらえないということはどこの国であっても普遍的な事実です。TwitterやFacebookなどはそのアプリケーションがユーザーにとってとても便利だと感じられたからこそ急速に普及したのです。私は、本研究科では、未来の社会においてどのようなコミュニケーションが行われているかを想像し、ユーザーが必要とするコミュニケーションやアプリケーションを構想して提言を行っています。
新しいコミュニケーションシステム提言の例
1)新幹線のための高速コミュニケーションシステム

レーザー通信実験中の新幹線
近年、多くの人たちが携帯電話やスマートフォンを用いて、インターネットにつないで、電子メールを送受信したり、ブラウザでさまざまな情報を取り出したりしています。そのようなサービスは、高速通信できる環境では問題ないのですが、高速移動中の新幹線ではとたんに使えなくなってしまいます。なぜなら現在の無線通信技術では、新幹線内の多くの旅客に大容量通信サービスを提供することが技術的に困難だからです。その一番大きなボトルネックが地上と列車の間の通信なのです。私たちはJRの鉄道総合技術研究所と過去数年間共同研究をおこなっており、2010年には写真のように、レーザーをもちいた新方式によって毎秒1ギガビットという高速通信実験に成功しました。
私たちは世界初のこの超高速通信技術を確立したうえで、2011年にはSDM研究所内に列車サービスラボをたちあげて、未来の新しい列車サービスについて検討を行っています。
2)位置情報システム
最近、多くの端末にGPS受信機が組み込まれ、ユーザーはナビゲーションとして使ったり、近くのお店の情報を入手したりできるようになってきています。これらの実用化している応用はとても便利なのですが、いったん屋内に入るとGPSの電波が届かないのでそのようなサービスが突然中断してしまいます。私たちは、その問題を解決するため、屋内でも使える位置情報システムを構築しています。現在、様々な新しい屋内位置情報システムが研究開発されていて、数メートルの精度で屋内位置を検出することができるようになってきていますが、私たちは、屋内でのナビゲーションなどの応用では、屋外以上に位置の精度が必要であろうと考え、2010年にセンチオーダーで位置を検出できるシステムを開発しました。この写真は、それを車いすロボットに応用した例で、ロボット自身がセンチの精度で自分の位置を把握して移動することが可能になりました。
LEDライトからの位置情報を受信して
車いすロボットがセンチの精度で移動
この技術はロボットだけでなく、スマートフォンにも応用できると考え、現在、今までにない新しいアプリケーションを開発中です。以上のように、私たちは高精度位置検出技術という木を見て、発明、開発するだけでなく、新しいサービスのコンセプトという森を構想しています。
デザインプロジェクトALPS(Active Learning Project Sequence)
SDMの目玉ともいえるのがデザインプロジェクトALPS(Active Learning Project Sequence)です。MIT、スタンフォード大学、デルフト工科大学および企業との連携のもと、現実社会で起きているリアルなテーマについて、学生はグループで徹底的なディスカッションを繰り返して、社会を変革できるような新しいシステムを探っていきます。私は4大学の連携、および企業との連携のコーディネーター.を務めています。
ALPSでは、チームで製品やサービスのプロトタイプをデザインすることで、プレゼンテーション力やリーダーシップ、システム設計などを養います。毎年新しいテーマを設け、「高齢者の生活を向上させるためのシステムデザイン」「サステイナブルコミュニティ(持続可能な社会)」「安全・安心」などテーマをもとに、学生チームがさまざまなプロセスを経て、新しいアイデアを出します。2010年度からは、多くの企業から上記テーマ内での問題を提起していただき、半年をかけて出した結果を企業の方々にも報告して好評を得ています。2011年度は「Symbiosis and Synergy (共生と共力)」というテーマでプロジェクトを行っていきます。
ALPSで特に重視しているのは、新しいコンセプトを発想する能力です。学生は、さまざまな手法をもちいてまったく新しいアイデアを作り出すことを実践で学びます。
SDMに来ていただきたい学生
SDMでは、「木をみて森も見る」人材を育てる、つまり、専門分野のことを知っているだけでなく、それを社会でどのように活用するかについても考えることが出来る人材を育てることを目標にしています。森を見る、つまり全体システムを検討するときに、木(専門分野)に関するしっかりとした素養、経験がなければ大きな提言をすることはできません。そのような素養をもっていて、それを世の中で役立てたいと思っている方にぜひSDMに来ていただきたいと思います。
